最弱のドブ攫いが落ちこぼれ勇者と恋に落ちて成り上がるまで

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「ったく!勇者見習いごときが面倒ったらありゃしない……あっ!きたきた!遅いじゃない!」 「えっ?」 受付のお姉さんが僕を手招きしている。まさかの僕待ちだった。慌ててカウンターまで走る。 いつもは邪険に扱われるからね。こんなに好意的に呼ばれるのは滅多にないから嬉しいな。 「ったく!いつも早いくせに今日は遅い!ドブ攫いはホントにグズなんだから!」 そうでもなかった……まだいつもと同じ開店時間ぴったりの時間なんだけどね……早く来ると邪魔だと怒られるし…… 「あのー。僕向けの依頼があるんですか?」 「そうよ良かったわね!この子が依頼を持ってきたから。よし嬢ちゃん!手数料は銅貨5枚、それはこっち。後はこのボーヤと直接やんな!」 嬉しそうな顔をしてその少女に手を出して催促している受付のお姉さん……少女は困惑して視線を僕とお姉さんを行ったり来たりしていた。 中々手を引っ込めないお姉さんを見て、しぶしぶ銅貨5枚を渡して僕の方を向く。すでに泣きそうになっている。 「あ、あなたが探し物名人ですか?」 「えっ?」 その少女の言葉に戸惑う僕。探し物名人ってなんだ……僕は受付のお姉さんに顔を向けると、何やらニヤニヤとこちらを窺っている。どうやらこの可笑しな事態はお姉さんのせいか…… 「違うんですか?違うなら困るんです!どうしても落としたものを探してほしいんです!」 「ま、待って!僕も何も聞いてないから詳しく話してほしいんだ。まずはそれからってことで……」 すでに半分泣いている少女をギルド内の開いているベンチに誘導する。 力なく座る少女。 「隣、座ってもいい?」 なんだか来たばかりなのに疲れちゃった僕は返事を待たずに隣に腰を落ろす。最近中々疲れが取れないんだよね……狭い部屋で熟睡はできないし…… そんな僕がため息をついている中、少女は必死に声を掛けていることに気づく。 「もう!聞いてるんですか?」 「あっいやごめん。もっかいお願い」 その返答にさらに顔をゆがめる少女。 「いやごめんて!お願い泣かないでよ。ちゃんと聞くからさ」 「ちゃんと……ぐすっ、聞いて、ください!」 僕はコクコクと首を縦に振る。 「私、勇者見習いなんです……田舎だったから勇者の天啓が出て村中大騒ぎして……大声援で送られて田舎から出てきたけど私……」 「そうなんだ。それで?何ができるか分からないけど僕に出来る事あれば頑張るよ!でも勇者かーすごいなー、僕も勇者だったら色々頑張れるのになー!そうかーいいなー僕なんてドブ攫いだよ?なんだよ職業ドブ攫いって……死〇よ神!」 少女の言葉に思わずため込んでいた呪詛を開放する僕。 「あ、あの!私、あなたを信用していいんですよね?不安なんですけど!私、本当に時間もなくて……」 「あ、ああ、ごめんごめん!羨ましすぎて心が痛く……」 中々話が進まない二人……よし、真面目に聞こう。 「私、勇者の紋章を落としちゃって……それで、いやいつもじゃないんですよ?でも結構忘れちゃうこととか落としちゃうこととかもあって……今度無くしたら落第だって……多分このギルド近くだと思うんだけど……」 「ああ、それで……それならもしかしたらだけど手伝えるかも……」 「本当ですか!」 「あ、ああ。多分だよ?」 その返答に顔がみるみる明るくなる少女。 多分だけど、僕のスキル『攫う』であれば水分のあるところなら何となくの探し物は探せるんだ。だからこんな雨の日は……探し物がはかどる日なんだよね。 僕は少し笑顔戻った少女に「多分ここらへんです」と言われたギルドから少し離れた商店街へと足早に歩いてゆく。 パラパラと雨が降り続いて地面は少しぬかるんでいる。 少女は合羽を着ているが、もちろん僕はそんなものはないからかなり濡れている。まあ慣れてるからいいけど。いっそこのまま頭を綺麗にしたいな。そんなことを呑気に考えていた。 「ここあたりだと思うんです。ここで無いって気づいて、私はあっちから学園のあるこっちに行く予定だったんです」 「なるほど」 少女が指さした商店街の反対側の橋の方を見る。 いい感じでぬかるんでいるようだ。 僕は『攫う』を発動すると、周りの水分からザザザと音がして中にある異物が水分の少ないところへぶるぶると震えるように移動する。これが僕の能力。普段はこれでドブから異物を集めてすくって…… そんな事しかできないけれど、この使い方に気づいてからは便利な探し物を頼まれることもあったのだ。 「すごい!すごいね君の能力!えっと……そう言えば名前……」 「あ、ああ僕はアレス。よろしくね」 ちょっと褒められて有頂天になった僕の声はうわずっていた。 「アレスくん……覚えた。私はリーネ。よろしくお願いします」 「こ、こちらこそ」 そのリーネのペコリと下げられた頭に嬉しくなってしまう。こんな僕に丁寧に接してくれる少女……惚れちゃうよね。僕は照れ隠しに道の先に体をむけた。赤くなってるはずの顔を見られたくないからね。 「こっちの方、でいいんだよね?」 「うん。そう」 僕はゆっくりとその方角を進む。僕の目の前ではザザザという水溜まりがざわめく音が、パラパラと降る雨の音に交じって聞こえていた。 「あっ!あった!あったよアレスくん!」 「え?どれどれ?」 暫く歩くと急にリーネが走り出し……ばしゃりと転んだ…… そしてリーネは、ゆっくりと起き上がってその見つかったと思われるもの拾う。恥ずかしそうにこっちに戻ってきた。合羽を着ていたがもう足元あたりは泥だらけである。 「ご、ごめんね。折角見つかったけど……今日は学園に行けそうにないや……」 「そう、なんだ」 「うん。私帰るね……今度お礼するから。とりあえずこれ。今日はありがとうございます。じゃあまた……」 「あ、こちらこそありがとう。またね」 僕に銀貨2枚を手渡してトボトボと帰っていった。
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