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そして僕たちはやっとギルドの中に入って初めてのパーティ申請を行うのだ。
「よー!今日は遅いと思ったら昨日の勇者様と同伴か!なかなかやるなー。ドブ攫いから女攫いにクラスチェンジしたかーぷはっ!」
受付まで行くと昨日のお姉さんがニヤニヤしながら僕に悪態をついてきた。
「ち、違うよ!これからこの子と、リーネとパーティを組んで狩りに出るんだ!」
「狩り?お前が?ぶっ!ぶはははは!こりゃいい!ドブ攫いと見習い勇者の冒険譚のはじまりか!よしきた!その歴史的瞬間を私が立ち会ってやろう!ぐふっぶはあはっあーこりゃ面白い!」
本当にお腹を抱えて笑い出したお姉さん。くっ今に見てろよ!
「いいからさっさと登録してください!き、協会に報告しますよ!」
「あーん、嬢ちゃん。それは私を脅迫してるのかい?」
「ひっ!」
怒ったリーネの言葉にお姉さんは急に怒りの表情でリーネを睨みつけた。そしてリーネは小さく悲鳴をあげ……僕の後ろに隠れた。
「ちっ!一応は勇者だからな。協会にちくられたら面倒だ。何してる!さっさと登録を済ませて、どっかいけ目障りだ!」
僕たちはその言葉と一緒にお姉さんがドカリと置いた魔道具と思われるものを見た。
「何してる!さっさとこの台に指を置くんだよ!」
怒れるお姉さんに言われ、僕とリーネは恐る恐るそれの上についている台に人差し指を置いた。
「「いたっ!」」
途端に指にぴりっとした痛みを感じて指を話す。それはリーネも一緒だったようだ。どうやら針のようなものに刺されたようで指からうっすらと血が滲んている。
「これでパーティ登録は完了だ!解除する時は声を掛けろ。仕方ないから解除登録もやってやる!」
めんどくさそうに説明しながらその道具をしまい、しっしと犬猫でも追っ払うような手振りのお姉さんに、僕は気にせずギルドを後にした。リーネはすごく怒った顔で少しだけ睨んでいたけど……僕はあんなのは慣れっこだからね。
「ほんと腹立つ!」
まだ怒ってるリーネに、よく怒りが持続するなと感心する。
魔物を狩ろうと森の方まで歩く僕たちは、まだ怒りが覚めずにブツブツと言っているリーネを観察していた。
「それより、協会って言ってたけどあれなに?」
「協会?ああアレスくんは知らないのね」
話題転換には成功したようだ。
「冒険者協会ってのがあってね。ギルドで働く人はそこに所属して給料をもらってるのよ」
「そうだったんだ」
「だからそこに苦情を言うって伝えたんだけど……怖かったな……ごめんね咄嗟にアレスくんに隠れちゃって……」
「そう言うことか。まあいいよ慣れてるし」
僕は思い出したように自分の肩を抱き震えだしたリーネに苦笑いをしていた。
「でも、嬉しかったよ。僕はいつも言われっぱなしだからね。僕のために怒ってくれてありがとう、リーネ」
「えっいやあれは……うん。言われっぱなしは気分が悪かったからね。へへへ。ありがとうなんて……勇気を出してよかった」
照れているリーネは可愛い。そして、その後で小石に躓いていて転んでも、何事もなかったようにパタパタと土をほろって歩き出す真っ赤な顔をしたリーネも可愛い。どうやら僕は少なからずリーネに好意を持ってしまったようだ。
「そ、それよりもまずはアレスくんのレベル上げだね!」
「あっ!そうだ!僕、黙ってついてきちゃったけどそもそも剣も何も持ってないよ?」
自分の現状を思い出して狼狽える僕。
「大丈夫!パーティ登録したから私が倒しても均等に経験値が入るから!」
「そうなんだ。じゃあ……お願いします」
初めて知った事実に、少し気恥ずかしくもあり立ち止まり頭を下げた。
「うん。まかせて!その代わり……私がドジしちゃっても、見捨てないでね」
「それは、今更な気が……」
恥ずかしそうにしているリーネは、ここに来るまで転倒1回、道具袋を落とすこと1回、水たまりに足をつけべちょべちょになること3回と相変わらずのポンコツぶりだった……本当に呪いじゃないのかな?
「よ、よし!多分この辺りからFランク、ゴブリンとかEランクのウルフとか出るから……アレスくんは自分の身だけ守ってね」
「えっ!もう?」
まだ深くまで入ってないのにもう魔物が出るのか……僕は怖くなって周りをきょろきょろとしていた。
そしてしばらくして、僕は初めての魔物と遭遇した。
「あれは?ゴブリンでいいんだよね?」
「う、うん。ゴブリン。大丈夫だよ、ゴブリンなら、た、倒したことあるし、まだ一匹だし、きっと大丈夫、だから、うん大丈夫!」
リーネのその言葉に不安が募るのはなぜ?
そしてリーネは次の瞬間……
「どりゃー!」という掛け声とともに走り出して腰の剣を抜き、豪快に振り降ろした。ゴブリンのすぐ横の地面に……
「ギギ!」と奇声を上げながら大げさに飛びのいたゴブリンに向かって、リーネは右手を前に突き出しその手からは水が噴き出した。そして怯んでしゃがみこんだゴブリンに……
今度こそは!とコンパクトに振りぬいた剣戟によりその首は刈り取られた。
「ざ、ざっとこんなところね……」
慌てて駆け寄った僕に行ったリーネの顔は、汗でびっちょりと濡れていた。
「いかに近づいてから魔法をあてるかがコツ……遠くからじゃ当たらないから……ね!」
「そう、なんだ」
僕は本当に大丈夫なのか不安になった。が、それよりも今は……
「リーネ……僕なんだか体があついんだけど……」
「あっ!本当?じゃあレベルアップしたかも!」
「えっ!」
僕は慌てて心の中でステータスをとつぶやき確認した。確かに……レベル2となった自分に喜び……そして気づけば泣いていた……
「ア、アレスくん?」
涙でぼやける視界の先では、リーネが何やら戸惑っているようだった。
「こめんね。初めてレベルが上がったから嬉しくて……ありがとうリーネ。君のおかげだよ」
「よかった。私も……嬉しい……」
僕が涙をぬぐって見たものは、僕と同じように涙に濡れた顔をぬぐっているリーネだった。なんて優しい子なんだ……そして可愛い。完全い恋をしている自分を自覚した。
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