十月二十二日(土曜日)

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「ストーカーって結局のところ心が未熟なのよね」 突然、黒いドレスの女が話題を変えた。 「相手の気持ちを理解する思考が欠如しているの。  自己中心的な人間ということになるのかしら。  だから  相手に自分の気持ちを押し付けようとする。  でもそんなのは愛じゃない。  子供が泣きながら  好きな玩具を強請ってるのと同じ。  だから相手に拒絶されると過度に反応する。  多くの場合、  それが憎しみという感情に変化する。  愛と憎しみは紙一重。  あなたの場合もそうだった。  ただ、  あなたの憎しみは八木明人にではなく、  彼の性の対象となった女性達に向けられた」 「興味深いお話ですね。  どうぞ続けて下さい」 女は微笑んだ。 「ふーん。  否定しないんだ?」 「呆れて否定する気も起きないだけです。  それにストーカーというのであれば、  彼こそが  そう呼ばれて然るべき人間ではないですか?  女性の後を尾けて襲う。  立派なストーカー行為です」 「後を尾けるという点だけに注目すれば  ストーカーとも呼べなくもない。  でも八木明人の場合は単なる変質者。  彼の目的は単に欲望を吐き出すことだけ。  その対象となる女性には拘りはなかった。  現に一件目の殺人事件が起きたとき、  彼は自分の襲った相手が  事件の被害者だということに気付いてなかった。  そして驚くことに、  八木明人は本当に好意を抱く相手には  手を出せなかった。  実際に二件目の被害者である  女子高校生に関しては、  彼が本当に好意を抱いていたのはその友達の方。  にもかかわらず  八木明人はその少女を襲わずに  その親友を襲っている。  他にもあるわ。  彼の通っていた市民プールの職員の女性。  彼は彼女にも好意を寄せていた。  でもその彼女にも何もしてない。  本当に歪んだ男だわ」 黒いドレスの女はそこで言葉を止めて 女をじっと見つめた。 女は髪を掻き上げると 黒いドレスの女から視線を外して、 窓の外へ目を向けた。 「極めつけはあなた。  八木明人があなたを盗撮していたことからも、  彼はあなたにも好意を抱いていたことがわかる。  そして当然あなたにも手は出せなかった」 その発言に女はハッと息をのんだ。 そして恐る恐る黒いドレスの女に視線を戻した。 「・・で、でも、結局私は彼に襲われたのです!」 会話が始まってから はじめて女が明かな動揺をみせた。
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