十月十八日(火曜日)

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突然、女が声をあげて笑い出した。 何も知らない人間が今の彼女を見たら、 無邪気に笑う美女に きっと心を奪われるに違いない。 しかし目の前に座っている男は 女のその笑顔に恐怖すら覚えた。 「そうね。  そういうことだったのね。  これでようやくパズルが完成したわ」 「・・つまり大烏はストーカーという弱味で  彼女を脅迫したと。  実果さんはそう言いたいわけですか?」 男は恐る恐る口を開いた。 「馬鹿ね。  そんなモノは  女を縛るほどの弱味にはならないわよ。  忘れたの?  さっき出た結論を」 女は男の発言を一蹴した。 「い、いや、あまりにも話が飛躍しすぎて  何が何やら」 女は「だから武は駄目なのよ」 と一言前置きしてから男の目を見て続けた。 「八木明人のストーカーは、  つまり二件の殺人事件の犯人  ということになるでしょ?」 男は頭を抱えた。 「そ、それは、  実果さんの妄想の中での結論ですよね?」 恐る恐る口を開いた男を女はキリリと睨みつけた。 男は一瞬、口を噤むも、 コンッと小さく咳払いをしてから 改めて切り出した。 「・・えーっと。  たしかに八木明人のストーカーが、  二件の殺人を犯している  という推理は納得できます。  しかし。  そのストーカーが三番目の被害者となりかけた  安倍瑠璃というのは、  ちょっと理屈に合わないというか。  そもそもストーカーが被害者になるなんて  立場が逆転していませんか?  実果さんの妄想、  いや推理は物語としてなら面白いですけど、  現実としてはやはり無理があります」 「何よ?  私の推理が間違ってると言いたいわけ?」 女はテーブルに両手をついて男に詰め寄った。 「そ、それは仕方がないですよ。  証拠がないんですから」 「・・そうなのよね、証拠がないのよね」 女はぷくっと頬を膨らませて ソファーへ身を沈めた。
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