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プロローグ
昔々、妖精と人間の国が分かたれた時代――。
ダペルカンという小さな王国がありました。
この国には幾つもの鉄鉱山と、綺麗な湖を持っており、鉄鋼業を中心に栄えました。
しかしその時代、鉄は貴重なものだったため、周辺諸国から国土や鉱山を狙われており、争いが絶えませんでした。
そんな時、黒い猫を連れた一人の魔女がダペルカンを訪れます。
魔女はダペルカンの女王に力を貸し、多くの敵を葬り去り、国土を広げていきました。
誰もが魔女を信じ、誰もが魔女を崇めたとき――、彼女は本性を見せたのです。
勝利の祝宴で皆が酔いつぶれている中、女王の王配は魔女と猫が外に出ていくのを見ました。
不穏な気配を感じ取った王配がそのあとをつけていくと、なんと国を乗っ取ろうなどと話しているではありませんか。
王配はすぐに、女王にこのことを知らせました。
女王は激怒し、魔女を追放しました。
国には一時の平和が流れましたが、それだけでは終わりませんでした。
ある穏やかな日差しの中、虹色の羽を持った美しい梟が王子のもとへ舞い降りてきました。
アンブローズと名乗るその梟は人の言葉を話し、王子に予言をもたらしました。
「魔女は辺境の地に身を隠し、再びダペルカンを乗っ取ろうと画策している」
梟は双翼を天上に掲げると、ひとつの杯を王子に託しました。杯には黄金に輝く液体がなみなみと入っていました。
「王子よ、キミは選ばれた。この杯にある竜の血を飲み干し、魔女に立ち向かうがいい」
王子は言われた通り、竜の血を飲み干しました。すると杯は剣に変化しました。魔力を吸い取るというその剣は、王子の手にぴったりと収まりました。
それから王子はアンブローズの予言のもと、魔女がよこした小鬼や悪竜などを倒していきました。
そしてついに暗雲立ち込める魔女の住処へとたどり着きます。魔女の住処には一匹の巨大な猫が、爪をむき出しにして大きな眼でこちらをにらみつけていました。その猫の名前はキャスパリーグ、魔女の愛猫でした。
キャスパリーグは剣をも通さぬ毛並みを持ち、鎧をも容易く引き裂く鋭い爪を持っていました。さらに魔女の使い魔ということもあり、魔法も使うことができました。そのため、王子がいくら剣を振ろうともキャスパリーグは傷一つ負いませんでした。決戦のために仕立てた鎧も、キャスパリーグの猛攻でボロボロになっていきます。王子はふと、アンブローズの助言を思い出しました。
王子はキャスパリーグから魔力を奪い、剣に溜めることにしました。じりじりと攻撃に耐え、キャスパリーグの魔力が尽きかけたとき……、王子は剣にためていた魔力を一気に放ちました。キャスパリーグは強い光にひどく怯え、王子の一撃を躱すことができませんでした。渾身の一撃を受けたキャスパリーグは、ふらふらと足をもたつかせながら後退していきました。そして背後にあった湖へと足を滑らせると、バシャバシャともがきながら沈んでいきました。
キャスパリーグに勝利した王子は、魔女の討伐に向かおうとしましたが、魔女の姿はどこにも見当たりませんでした。
アンブローズは言います。
「魔女は王子の力を恐れ、猫に魂をうつして自ら死を選んだ。しかし猫には九つの命が宿っていると言われている。これからキャスパリーグは八度も生き返り、魔女と共に厄災を振りまくだろう。王子よ、その血を絶やさず、大厄災を討つがいい。全ての厄災を討ち払ったとき、この国に真の祝福が訪れるだろう」
王子は自らを導き、国を救ったアンブローズを大賢者と称えました。そして国名を尊敬の意を込め、アンブロシアに変えました。
それから時が経ち――、キャスパリーグが九つ目の最後の生を迎えたとき。
大賢者が告げた「真の祝福」が、ついに訪れたのです。
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