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季節は春。様々な人たちが新たな門出に胸を躍らせたり、不安を抱く季節。
それは四季が豊かなこのアイレス王国でも例外ではない。人々はいろいろな感情を抱きつつ、新たな道へと足を踏み入れる。
そして、アイレス王国の騎士団も、今年の新米騎士たちを迎えることになり――。
「無理よ! 絶対に無理! 私に騎士さまなんて務まるわけがないわ!」
女性騎士が住まう寄宿舎の前にて。一人の女性が首をぶんぶんと横に振っている。
ふわりとした肩の上までの茶色の髪。ぱっちりとした青色の目。顔立ちだけ見れば年齢は十五、六くらいだと思われる。
しかし、彼女は十九歳。立派な成人女性だ。だが、彼女はその目に大粒の涙をため、自身を見下ろす両親に抗議していた。
女性の両親は顔を見合わせ、「はぁ」とため息をついた。
「無理よ! お父様もお母様も知っていらっしゃるじゃない! 私が臆病だっていうこと!」
女性がそう声を荒げる。が、そうなったのもこうなったのも、全てこの女性が『臆病』であることが原因だった。
「じゃあ、アリスは今から帰って何処かにお嫁入り出来るっていうの?」
「……う」
母のその言葉に、女性――アリスは黙る。実際問題、そうなのだ。
アリスはこの臆病すぎる性格の所為で、お見合いは現在八連敗中。名門伯爵家の令嬢として、あるまじき不名誉さだった。
社交界では徐々に後ろ指を指されるようになり、優秀な姉と比べられる始末。姉は笑って「いつかいい人が現れるわ」と言ってくれるが、両親と親族はずっとこの調子なのだ。気も滅入ってしまう。
「アリス。とりあえず、ここで一年頑張ってみなさい。その後のことは、一緒に考えよう」
穏やかな父が、そう言ってアリスの肩をポンっとたたく。
声音こそ穏やかだが、言っていることはアリスにとって鬼畜以外の何物でもない。もう、泣きたい。
「無理よぉぉ!」
臆病な上に人見知り。挙句、あがり症。そもそも騎士団では独身の騎士たちは寄宿舎で共同生活を送るのだ。
……この性格で一人にならないほうが、無理と言える。
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