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 和馬と奈美は、こちらのことをたくさん教えてくれた。  この学校は彼らの祖父母世代が通っていた古い学校で、元は木造だったという。一九八〇年頃に鉄筋コンクリート校舎に建て替えられたらしい。  しかし、十数年前にこの地域の少子化により、集井小学校は町にある風山小学校と合併されたのだそうだ。それに伴い、こちらの校舎は使われなくなり、手入れがされずに今に至っているのだという。  ここは現在、彼らの遊び場所になっているということだった。  僕は彼らに自分の住む街について話した。彼らは都会の話を聞いて、小さな事に対しておもしろい反応をしてくれた。例えば、コンビニエンスストア同士の近さで感心していた。  自分の家の周りでは、別のコンビニが道路を挟んで向かい合っていたりするという話をすると、もっと離れたところに作った方が、お客さんが多く来そうなのに、と言われた。  たぶん、混んでいない方にお客さんが流れて丁度よくなるのだと返すと、便利さを羨まれた。  会話に盛り上がっていると、急に雨が降り出した。  先ほどまで青かった空は分厚い雲に覆われて、地面で水滴が跳びはねていた。  小学生たちも大急ぎで校舎の方へ走ってきて、僕らは校舎の中で雨が止むのを待つことにした。  和馬が、校舎の中で比較的綺麗な教室に案内してくれた。  黒板には彼らが書いたような落書きが見られ、それを総一くんが近くに置いてあった黒板消しで消した。  よくここで落書きをしているらしく、側に転がっていたチョークで、みんなそれぞれに絵を描き始めた。 「ちょっと、校舎内を散歩してきてもいいかな」  和馬は頷いた。 「いいよ」 「秋、ちょっと校舎の中見て回ってこようと思うけど」 「ぼくはここで絵描いてる!」  彼は友達とのアートを楽しんでいた。 「秋くんのことは見てるから。たぶん、しばらくこの部屋にいることになると思う」 「わかった。じゃあ、行ってくる」 「春、ちょっと待って!」  僕が教室を出ようとすると、秋が慌てた様子でカバンをガサゴソかき回しながら言った。 「これ」  差し出されたのはゴム手袋だった。 「弘子おばさんからもらったの忘れてた。もう使わなくなったやつだって。毛虫ガードなの」  ゴム手袋は肘手前までの長さで安心感があった。  これがあれば、毛虫にも何とか近づけるかもしれない。近づきたくはないが。 「秋、ありがとう」 「もし、前みたいにドアノブに毛虫がついてても、これをつければ大丈夫だよ」  秋は、また後でね、と友達の元へと戻っていった。  手の中のゴム手袋を見た。  毛虫なんか平気と言える、いい兄になりたいと思った。  それでもイラガのことを想像すると、やっぱり身のすくむ思いがした。  ゴム手袋をリュックに入れ、こもった雨音の中、廊下を歩く。
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