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「ここが音楽室だ」  教室には足踏みオルガンが並んでおり、奥にグランドピアノが置かれていた。  壁には音楽家の絵が飾られていて、その下に木琴などの楽器が置いてある。 「次は、どこの教室がいいかな」 「ヤシ、図工室が近いよ」 「じゃあ、図工室が次の目的地だ」  木の廊下を歩く上履きの音が、静けさの中に楽しく跳ねた。 「これが図工室だな。鍵かかってるから入れないや」  中を覗くと、暗い棚や机の上に(きり)や絵の具など様々な道具が見えた。 「あ、私の」  アサヒが指さす先には、雪山の版画があった。廊下の壁には生徒たちの作品がずらっと並んでいる。 「おれのはこれ」  ヤシのは抽象的で、流星群のような流れる線と太陽みたいな光る球が浮かんでいた。 「すごい、芸術的だね」 「芸術的? 野球の風景を描いただけだぞ」  それを聞いた上で、野球には見えなかった。  それから教室を順繰りに回った。  家庭科室、理科室など鍵がかけられているところが多く中には入れなかったが、窓ガラス越しに覗くことはできた。  別に人体模型が動いたりすることはなかったが、誰もいない教室を覗き見るのはドキドキした。 「ここがさっきおれたちが入ってきた一階の男子トイレ。窓の鍵が壊れてるからいつでもここから出入りできる」 「誰もいない学校にいるの、極秘作戦みたいでワクワクするよ。後はどこがあるの?」 「図書室とか。もしかするとカギ閉ってるかもしれないけど、行ってみるか」  廊下の窓からは昼下がりの陽が差し込み、宙を舞う埃が煌めいていた。  ヤシがドアに手をかける。  ドアはすんなりと開いた。 「お、ラッキー。閉まってないや」  彼は本には目もくれず、奥の方の窓際に進んでいく。 「あれ、ビックとシゲがいない」  隣に並んで見てみると、校庭には誰もいなかった。 「疲れて校舎に入ったのかもね」  アサヒが窓に張りついて外を眺めながら言う。 「ビックも来年には中学生なんだな。おれたちが小学校で一番年上になるのか」  ヤシが感慨深そうに言う。 「おれもビックみたいにすごい六年生になるぞ」 「ビックは運動も勉強もできるからね。ヤシも勉強頑張んなきゃ」  アサヒは楽しそうに話した。 「勉強か、面倒くさいな」  ヤシが窓を開けると新鮮な空気が入ってきた。 「あー、気持ちー」  ヤシはTシャツの裾を持ち上げて、はためかせていた。  自分と遊んでくれる友達がいる。  これは、僕にとってとても幸せなことだった。
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