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僕はクラスのみんなと仲よくなる前に引っ越すことが多い。
今回の引越は、タイミングが夏休みだったから、なおさら友達はできないと思っていた。
しかし、今、目の前にはミラクル冒険隊のみんながいる。
「はる、何をにやにやしてるんだ? 何かイタズラでも思いついた?」
ヤシが悪い笑みを向けてくる。
「いや、そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「僕、転校ばかりしていたからさ、あんまり友達ができなかったんだ」
ヤシとアサヒは何も言わずに頷いた。
「それで、友達と遊ぶこともしてこなかったんだけど、今、こうして遊べてすごい楽しいなって」
ヤシが窓枠に両手をつく。
「友達に入れてくれてありがとう」
「友達に入れたわけじゃないぞ」
「え?」
僕は固まった。
「おれがはると友達になりたいと思ったんだ」
「そうだよ。あたしたちが入れてあげたんじゃない。みんながはると友達になりたいと思って、はるもみんなと友達になりたいと思ったから、あたしたちは友達になれたんだよ」
アサヒは近くの椅子に座っていた。
「そっか、じゃあ、僕たちは友達になったってことか……」
「まあ、ミラクル冒険隊には隊長の許可が必要だから、入れてあげたけどな」
アサヒは微笑んだ。
「隊が無くなってもあたしたちは友達だよ」
「そんな、隊は無くならないぞ」
胸の内側にじわじわと温かいものが広がった。
それは照りつける夏の陽差しよりもずっと温かいものだった。
「いたいた。ここか」
振り返ると、開いたドアからビックの顔が出ていた。
「お、ビック」
「俺とシゲは疲れたから休もうと思ってるんだけど」
ビックは眉を上げて笑みを浮かべた。
「家にすいかがあるんだけど、食べに来ない?」
アサヒとヤシが、「行く」と元気に叫ぶと、ビックの後ろからシゲも顔を出してそれに続いた。
「はるも来る?」
ビックは優しく聞いた。
「うん」
彼は白い歯を見せて目を細めた。
「よし、じゃ行こう!」
明るい窓際から離れると、視界がとても暗くなった。
背後からミーンミンミンと蝉の声が追いかけてきた。
みんなに続いて教室から出かけた時、僕は窓が開けっぱなしである事に気づき、窓際に戻った。
蝉の鳴き声の中に、誰かの声が混ざって聞こえる。
「おおい、はーるー」
足元に陽だまりができていた。
「あ、いた。外晴れたから、そろそろ帰ろ!」
教室の入口から秋が覗いていた。
僕は校舎探索中に入った教室の、窓際にもたれていた。
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