お正月のボクら

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ー side 嵐 ー  今年の正月は雪が降らなかった。ここ数年毎年雪だったのだが、三日前に積もった雪が僅かに残っているくらいで、店の窓からは色の薄い青空が窺えた。 「お参り日和だな」  参拝客で賑わっているのだろう初詣を思って呟く。  蘭真の店は今年も休まず営業している。それでまた客が来るから不思議なもので。  正月から洋菓子ですか?などとお節介にも思うけど、逆に和菓子店は休んでいる気がしなくもない。というか休みだ。少なくとも地元で人気の和菓子店は休みだった。いちご大福が美味いことで有名な店だが、如何せん一粒が高い。対抗して、いちご大福の餡子をクリームに変えたスイーツを作ったらどうだと蘭真に提案すると、やけに乗り気だった。「美味そう! 俺が食べたい」とか何とか言って、しばらく試作品を作っていたけど、完成したのかどうかは不明だ。現状をお伝えするなら、店に大福はまだ並んでいない。すでに本日正月なのだが、いちご大福はない。きっと失敗に終わったのだろう。俺にはわからない何かしらの原因があったと思われる。十中八九、柔らかすぎて食べにくかったのだろうけど。  スイーツのことはあまり良く知らない。食べるのが俺の仕事だから、専門的なアドバイスも出来ないし、アイデアさえも素人。たまにキッチンに入って手伝いをしたりするんだけど、未だ生クリームを塗るのは下手くそだ。諦めることにした。  店番をしながら空を見上げる。雲は遠くの山を覆うように被さっているだけで、あとはもう見渡す限り青空だ。 「今年もボードしたいなぁ」  客足が途絶え、ぼんやりと空を見上げながら呟くと、隣にいる高校生のアルバイトちゃんが俺を見た。 「マネージャー、ボード上手そうですね」 「そう? ま、下手ではないけど」 「私したことないんです。中学の時にスキー教室はあったんですけど、全員スキーしかさせてもらえなくって」 「ボードさせてもらえなかったの?」 「そうなんです。みんなブーイングでしたよ」  正月早々、文句も言わずにアルバイトに来ている真面目な高校生だが、スキーかボードかで文句は言うらしい。 「俺はスキーも上手い」 「あはは! マネージャーって運動神経良さそうですもんね! 高校の時は部活、何してたんですか?」  聞かれて苦笑した。 「帰宅部」  蘭真が俺を不良だと言っていたことを思い出したから。   「意外です! 聞きました? マネージャーって高校の時、帰宅部だったんですって!」  高校生アルバイトが焼き菓子の棚を整頓している大学生のアルバイトに声をかけると、彼女は楽しそうに笑った。 「スポーツマンに見えるものね。でも、パソコンに強いから、インドアな印象もあるんだけど」  その言葉に、「あ、たしかに」と納得されてしまった。 「ばーか。俺は健全な24歳なの。仕事もするし、遊びもするの」 「恋愛は?」  大学生アルバイトにニッコリ微笑まれて聞かれたから、思わず舌打ちしてしまった。
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