坂巻くんはツンデレをやめたい

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*  東泉高校と白羽学院の間にある公園。  いつもの自転車で現れた坂巻を見て、私は言葉をなくしてしまった。 「か、髪!? どうしたの!?」  トレードマークのハナミチリーゼントがきれいさっぱり坊主になってる。  マネキンみたいな丸い頭をざらりと一周なぞって、 「赤毛のリーゼントが気合入れるときは丸刈りって相場が決まってんだよ!」 「なに、禊ぎ?」  ホラ、と検索したスマホで、漫画イラストを見せられる。 「てゆーか、変? 嫌?」  そりゃ髪がある方がかっこいいけど。 「リーゼントよりはいいと思います、正直」 「俺、もしかして髪型で損してた?」  気づいてなかったんだ……。  坂巻はバスケ部に入ることになった。  お母さんと相談したらしい。  高校に入って半年、通学とバイトと勉強で、いっぱいいっぱい無理をしてた坂巻だけど、同じ無理をするなら部活やれば? ってなったんだって。  お金のことは、あんたが気にすることじゃないって、これまで渡してた分もまとめて封筒を突っ返されたらしい。気持ちは十分もらったからって。  コンビニのバイトは引継ぎが終わり次第、辞めるそうだ。  坂巻は初志貫徹を守りたかったみたいだけど、バスケを再開できるのも嬉しそうで、今日もなんだかんだご機嫌だ。坊主だから元気な小学生みたい。大きい子どもだ。  もともと私に謝罪&告白のミッションを完遂したら、コンビニは辞めようと思ってもいたみたいだから、まあ、一応それはコンプしたわけで。 「その頭、学校でからかわれたんじゃない?」 「文化祭の劇、どうすんだってすげぇ怒られた」 「それはそうだわ、王子サマ。どうするの? ヅラかぶるの?」  クラス劇で王子役に抜擢されたのは無理やり聞き出した。文化祭は外部生の参加OKだって聞いたから行こうと思ってたら、絶対来るなって妙に坂巻が頑なだから理由を聞いたらそれが原因だった。 「え、ハゲのまま出るし。ざまあじゃね? そもそも俺、王子役なんて嫌だって言ってんのにさ」 「ハゲ王子なら観に行ってもいい?」 「ダメだ! 来んな! ハゲでもヅラでも絶対無理!」 「けち。でも文化祭には行ってもいい?」 「……ま、それは」 「来て欲しい?」 「来て欲しいわけじゃねーけど! ま、それはそれで嬉しい、かもな」  顔真っ赤で超小声。  ま、しょうがない。坂巻は『素直になったら負け』の病気にかかってるからしょうがない。  坊主頭も見慣れたら、顔のつくりが全面に出てて、逆にイケメンをアピールしてる気がする。   「髪、伸びたら、真野がいいって思う髪型にする」 「え、部活入ったらずっとそれじゃないの?」 「バスケ部、そんな決まりねえし」 「赤毛のアイデンティティも捨てるの?」 「そもそもあの色にアイデンティティとかねーし! 赤く染めてたのは、かっちゃん先輩の母ちゃんに勝手にやられてたってだけだし、赤い色はD工へのレクイエムとかって」 「レクイエムって意味わかってる?」 「えっ、間違ってる!? どういう意味!? かっちゃん先輩がそう言ってて……わっ!」  スマホで検索してる坂巻の腕に抱きついた。   「かっこいいよ。どんな髪型でも坂巻はかっこいい」 「バッ、ウッ、クソッ……」  坂巻は顔を赤くして、言葉に思いきりつまってる。考えるより先に口から出ようとする言葉をたぶん必死で飲み込んでる。  いいのに。理解ある彼女ですから。  だって、キレた口調は照れ隠し。  いじわるするのは好きな証拠。 「……あの」  坂巻はあからさまに明後日の方を見て、私と目も合わせないで、唇噛み締めて。 「その、ちょっと離れて……距離……」  その言葉に私はさらに密着する。 「バッ! は、離れろって! 近さ! ヤベーから! お、襲われても知らねぇぞ!」  もっと密着。  そう、だって坂巻くんはツンデレなのです。 終
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