坂巻くんはツンデレをやめたい

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* 「おいっ、なんで来ねえんだよ!?」  学校からの帰り道、例のコンビニの手前で声をかけられた。  というかすごまれた。  坂巻に、どうやら私は待ち伏せされていたらしい。  え、なんで。いろいろ怖いんだけど。  坂巻は制服姿だった。  白のシャツにチェックのズボン。ありきたりな夏服だからどこの高校かはわからないけど、坂巻は高校に通っているようだ。  フリーターではなかった。赤のカラーリングでもOKな校則のゆるい学校なんだろう。 「毎日店に来てただろうが! お、俺が声、かける前までは……」  だんだん声が小さくなって、もしかして私がコンビニに行かなくなったのは自分のせいだって気にしてる? いや、まあその通りなんだけどね。    坂巻と偶然再会したのが四日前。  それから私はやっぱりあのコンビニに行けてない。ていうか行ってない。 「いや、だって、知ってる人がバイトしてるとか気まずいし……」 「は!? 誰もお前のことなんかいちいち見てねえわ!」  本日一回目の『イラッ』。 「……別にあのニコマートじゃなきゃだめってわけじゃないし。他のコンビニでもいいし」 「お、お、お前、ニコマのプライベートブランドのパン、好きなんじゃねえの! 毎日買ってただろうが!」 「……学校の近くの店舗でも買えるし」 「来いよ!」  え、なんで。  坂巻のお店じゃないじゃんって言いたい。  言いたいけど、言えば、ああ言えばこう言うのが目に見えて、言葉を飲み込んだ。  冗談の言い合いといえるほど面白みもなく、かといってウィットに富んでるわけでもなく、とにかく無駄で不毛で、不快な対話。 「お、お前が来ねえせいで、余って俺が買わされただろうが!」  そう言って、レジ袋を私に向かって差し出した。  意味がわからず、後退しがちにその袋を静観していると、「オラッ」とずんずん突き出してくる。  こわごわ受け取ってみると、中にいつも私が買っている『ふわふわホイップロールケーキパン』が三つとジャスミン茶が入っていた。 「え、なにこれどうしたの」 「……やる」 「え、なんで」 「お前が買いに来ねえと、俺が買わされるんだよッ!」 「え、なんで」 「おかげで働いても時給マイナスだぜ」  いや、まじで『なんで』。いろいろ『なんで』なんですけど。  坂巻との会話ははてなばかりだ。
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