坂巻くんはツンデレをやめたい

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「や、ちょっと意味が……わかんないから」  おずおずと袋を返すと、 「お、お前のために多めに発注してもらってるんだよ!」  え。  もっと意味わかんないし、納得も行かないけど、もうこの不毛な時間を終わりにしたい。 「……なら、買い取るから。ちょっとまって、お金⋯⋯」 「い、いるかよッ!」 「でも……」 「いらねえっつってんだろ!」  話が通じない。  面倒になって不本意ながらも「ありがとうございます」と受け取った。 「店、来いよ。買いに来いよ!」 「まあ、行けるときは……」 「毎日来てただろっ!」  坂巻がそばにあった自転車にまたがった。  なんか、言い逃げの態勢? 「っていうか、いつから私のこと知ってたの……?」  坂巻がにやりと鼻で笑う。  うわ。いじわるな悪役の笑い。こんな表情する人、リアルにいるんだ……。 「いつからだろうなァ? 俺に気づかねぇで、いろいろお買い物してたなァ。すっぴんメガネで来たこともあったっけなァ。俺、今日は休みだけどほとんど毎日入ってっから」 「えっ、やだ、見てたの!? うそ、まじ最悪!」 「気ぬいてボケッと生きてんじゃねーよ」 「だったらもっと前に声かけてよ」 「いつ気づくかって待ってやってたんだろーが。まだだ、まだ気づかねーよって数ヶ月。お前の間抜けぶり、まじウケるわ!」 「こんなところに小学校の同級生がいると思わないし……」 「俺が働いてるから店来ねえとか、まさか俺のこと意識してんのー?」  本日の『イラッ』、もう数えきれず。 「……じゃ。これ、ありがとうございました」  腑に落ちないけど。  帰る方向、つまり坂巻を通り越して歩き出す。 「来いよッ!」  無視。 「来ねぇとお前の負けだからな!」  無視して、早足。  負けとか言うの、ほんとにガキ。 「てか、毎日いるの……」  どんだけ働くの。  一日おきとかなら、私も心置きなくお店に行くのに。私も一日おきに行くのに。もちろん坂巻と逆の隔日で。   「はぁ」  ため息が出る。  てか、なんで。なんでこんなにウザ絡みされてるの。何の恨み。  なんかいろいろ意味不明だし、いちいち腹立つし、面倒くさいし。  さすがにもう引っ越しもできないし。 「普通に話が通じる相手なら、私だって普通にお店に寄るって話なんですけど……」
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