坂巻くんはツンデレをやめたい

12/89
前へ
/89ページ
次へ
*  坂巻に待ち伏せみたいなことをされてから、私は日課だったコンビニ通いを再開した。  また待ち伏せみたいなことをされたら嫌だし怖いし、坂巻を意識して「来ない」と思われるのもシャクだから。 「お願いします……」 「おう」  私の商品にバーコードを通す坂巻。  ちらりとカウンターの中の人を見る。  坂巻、だなぁ。ほんとに名札に坂巻って書いてるわ。確かに、私、ぼーっと生きてるかもな。  今までもこうして坂巻がレジがしていたのかな。してたんだろうな。本気でまったくレジの人の顔なんか見てなかった。おばちゃんの店員さんは認識してたけど(私の反応関係なくおせっかいを焼いてくれる。お願いしてないのに『おてふきつけとくわね!』とか)、若い人だと、外見派手ってだけで警戒して目合わせないようにするしなぁ。イヤホンも外さないし。  レジで精算してもらう間、そもそも袋詰めもなくて、バーコード決済だから、相対してるのは数秒。  その間、心を無にさえしていれば、以前までの日常とあまり変わらないと気付いた。  そもそも、相手は仕事中だし、そもそも会話が成り立たないから、「どうも」「おう」と言って言われるだけの日がほとんどだし。 「……なんだよ。ケンカ売ってんのか」  視線に気づかれた。慌ててそらす。 「べつに」  坂巻は見上げるくらい、背が高くなってる。巧と同じくらいかな。巧はまだ伸びてるって言ってたけど。  私は小学校の時にすでに160センチあって、それから背は伸びてない。  坂巻は当時、わたしよりもだいぶ低かった印象がある。   男子ってこんなにも大きくなるんだ。  髪を後ろに流してオールバックみたいにして、なんかそれはダサいけど、顔は少し大人になったかっこよさが……。 「お前さぁ、こんなの毎日食っててデブっても知らねーよ」 「……」  私はなにも言い返さないけど、明日からもうこれ買うのやめよう。絶対。   たまに今日みたいに、余計なこと、主に神経を逆なでするようなことを言ってくる日もある。  そういうときは、「無」で対応か、「無視」。  今の学校の男子が、みんないかに紳士的なのかと実感する。  とにかくこんな物言いをする男子はいない。いや、うちの学校だけじゃなくて、今時いないんじゃないか。小学生か。  ってゆーか、態度悪くてバイト辞めさせられたらいいのに。でも、他のお客さんには普通に対応してる。当たり前か。だったらなぜ当たり前のことが私相手にはできないの。 ────コドモ。  体ばっかり大きくなって中身はそのまま。かわいそうに。 「じゃ。どーも」 「え、あ、ちょ……」  レジを立ち去り、自動ドアが開く。  まるで私を逃がしてくれる希望の扉。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1071人が本棚に入れています
本棚に追加