坂巻くんはツンデレをやめたい

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* 「俺、明日シフト入ってねーから」  別に聞いてない。けど、それ有益な情報だわ、ありがとう。心おきなくお店に来れます。 「学校の、行事で。体育祭なんだけど。打ち上げあって……」 「ヘーソウナンダ? じゃ」  終了。別に知りたくないし。興味ないし。  ある日は、 「……今日、雨やばくね?」 「そうだね。じゃ、ありがと」  終了。  またある日は、 「……おい、あのパン買わねーのか。す、好きなやつなんじゃねーの」 「もうあれ飽きたの。じゃ、ありがと」  終了。 「な、なあ! ……お前んとこの学校の文化祭って外部招待制ってマジ?」 「そうだけど、よく知らない。他校で招待したい人もいないし」 「なんだ、お前、友達いねえのかよ。ウケる」 「これありがと、じゃ」  終了。  盛り上がるような共通の話題もない。  嫌味なことばかり言ってきて、会話のキャッチボールができない。  揚げ足を取られないようにする。それが一番。  だから、話をしたとしても一言か二言。  日々、それぞれの会話にそれなりに疑問や思うことはあるけど、とにかく普通のキャッチボールにならないから、言葉を返す気にならない。  再会して、でも昔に読書の話で盛り上がれた時の坂巻がいるかもと期待してみたことも一瞬あったけど幻だった。  小学校ではああだったけど(心理学用語で反動形成というらしい)、中学生、ましてや高校生にもなれば心も成長して、思春期のトンネルも抜けているはずだろうと思うけど、だからあれば坂巻の「素」なんだろう。  本当に私は坂巻の気にくわない存在で、図書室のあの一瞬は、もしかしたら少女漫画で言う罰ゲーム的な、私をいずれ貶めるための仮の良順を演じていたのかもしれない、というところで落ち着いている。  そして、無用で不毛な争いを避けるために、私が折れてコンビニに寄ってあげているのだ。  大人だから。
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