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そのうちに、本以外のことも話すようになっていた。
他愛ない日常の出来事から家族のことや、他の趣味についても。
私は読書のほかにお菓子作りも好きでよく作っていて、坂巻はそれに興味を示してくれ、食べてみたいと言ってくれたり、坂巻からはバスケの話をよく聞いた。
身長を伸ばしたいとか、ロングシュートをもっと入るようにしたいとか、ドリブルがどうとか、そもそもバスケットボールについて何も知らない私に、坂巻がバスケの本を教科書にルールを教えてくれたこともあった。
夏休みにも図書当番の日が数回あったから、特に当番時間の長いその日は坂巻とたくさん話ができた。
バスケの試合に誘われて、私は迷ったけど、どうにかそれらしい理由をつけて友達と見に行った。私の心配をよそに、学校の女子はたくさん応援に来ていたので、無関係の私が悪目立ちすることはなかった。
私は夏休みの旅行のお土産を坂巻に渡して、坂巻はそれを喜んでもらってくれた。
たぶん。
夏休み最後の図書当番で、二学期も一緒に図書委員やろうぜと言われて、私はうなずいた。
今も、蝉の声とうだるような暑さとほこりっぽい本の匂いがふいに重なった夏、その六年生のときを思い出すことがある。
男子と女子の間に特別な時間が存在するということを体感したあの夏の記憶を、たまらなく思い出す。
まだ十五年しか生きてない私の人生だけど、あのときを一生、特別な時間だったと思い出すだろう。
あれが初恋だったと、キラキラ、ちくちく、ぎゅっと胸を締め付けられながら。
状況が変わったきっかけが何だったのか、それは今もわからない。
二学期の委員決めのとき、図書委員に私は手を挙げたのに坂巻は挙げなかった。
その時にくすくす、にやにや、ひそひそ。何かを嫌な雰囲気を肌で感じた。
そのうちに、私が坂巻を好きだと噂になった。
「嶺王。またお前見てるぞー」と男子にからかわれ、「○○ちゃんの好きな人が坂巻って、まのんちゃん知ってたよね? 協力するって言ってたよね?」とか女子からいわれない弾圧を受け。
陰キャ寄りの私に、味方してくれるクラスメイトが存在するはずもない。
挙句、坂巻本人も私を攻撃してきた。
ことあるごとに、私にちょっかいをかけてきては、嫌味なこと、ひどい言葉をぶつけられた。
人気者のプライドなのか、ある日突然性格が変わってしまうような病気にでもかかったのか、ただ突然に嫌われたのか。
俗にいう『好きな子をいじめる心理』なるものがあると、中学校に入ってから知ったけど、それを鑑みても、当時の坂巻の言動はその許容範囲ではなかった。
私は同年代では成長が早い方だったせいもある。
男子同士のやらしい話の中で、私がエロい話題に上っていたと、親切な女子がご丁寧に教えてくれたけど、その話題をそもそも提供したのはおそらくその女子本人だ。
胸がどうとか、生理がどうとか、そのうちに坂巻を誘惑したとか、小学六年生当時の私がすでにキスやその先を経験済みだとか、もうあることないこと。
今は「くだらない」と思うけど、やっぱり当時は恥ずかしかったし、つらかった。
図書室ではいつも貸出禁止のエロい保健の本(そもそもそんな本ないのに)を愛読しているアブない女子認定された。
坂巻はそれに乗っかるように、図書室で私に抱きつかれてキスされそうになったと、男子に威張って言いだした。
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