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いじめと言えるほど深刻な事態とは捉えてなかったけど、私は学校生活に心底嫌気がさして、お母さんに学校が嫌だと言った。
坂巻をはじめ、クラスメイトの言動を訴えると、数日後、お父さんに都会の私立中学校を受験してみてもいいぞと言われた。
それが実際にはどういうことなのか、理解はしてなかったけれど、学校案内のパンフレットで見たら制服はかわいかったし、みんなと同じ中学に進むことなく、転校(と同義と思っていた)できるのならそれはなんて夢があることだと思えた。
図書委員には一学期同様、じゃんけんに負けた他の男子がなり、「相手が坂巻くんじゃなくてすみませーん」とふざける男子とその状況を笑う坂巻軍団が図書当番の仕事を邪魔しに来るのは毎回のことだった。
そのとき、坂巻が図書室で本を手に取ることはなかった。
二学期が終わるころ、私は学校を休みがちになった。
けれどそれは不登校とか学校に行きたくないとかではなく、家で勉強に集中するためだ。
坂巻はまだいちいち嫌味なことを言ってきたけど、私はすでにもう明るい中学校生活に照準を合わせて、そのための勉強に夢中になっていた。
そのうちに、クラスでも飽きられた話題となって、他のクラスメイトから冷やかされることもなくなった。
一見つつがなく二学期が終わり、冬休みが来て、年明けに私は中の上レベルの偏差値の志望校に無事合格した。
あれよあれよと引っ越しが決まって、六年の三学期はあっという間に過ぎた。忙しかったし、中学校生活のことばかり考えていたからか、その時の記憶はあまりない。
坂巻がミニバスの引退試合の前日、終わりの会で「最後の試合なので是非見に来てください」と前に出てお知らせしていたのは覚えている。
でも、『発言をする人に注目しましょう』と書かれた画用紙が、教室の掲示板に貼ってあるその前の席で、窓の外の校庭を見て、坂巻の顔は見なかったし、試合にも当然行くわけはなかった。
受験したことも合格したことも私は誰にも言わなかった。
誰にも言わず引っ越して、そして今日に至る。
これらのすべてが坂巻が原因とは言わないけれど、坂巻がいなかったら私は地元の中学に進学していただろうし、引っ越すこともなかった。
中学校は楽しかったし、いい友達にも出会えたから、坂巻を恨んだりはしていないし、こっちに来るきっかけを作ってくれてむしろありがとうとさえ思う。
小学校の時の同級生で連絡を取ってる友達は一人もいない。
引っ越ししても会いたいと思えるような子とは小学校の時に出会えなかった。
「……明日から学校に近い方のコンビニで買おう」
呟いて、ようやく制服から着替えるために脇のボタンを外す。
ホイップロールケーキパンはやわらかくてつぶれやすいから、家の近くで買いたかったけど仕方ない。
会いたくは、ない。
今の坂巻が昔と変わらなかったってことは、当時の言動も『好きな子をいじめる小学生男子特有の』じゃなかったってことだから。
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