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「まのんー。でっかいため息ついて、どした」
休み時間、うっかりついたため息を美場巧に見とがめられた。
「なあ、英語の訳、見せて」
そう言いながら巧が私の前の席の椅子を引いて座る。
「なんかおごってくれたら見せる」
「まかせとけ」
私は机からノートを出す。
パックジュースのストローを吸いながら、ノートを写し始めた。
巧とは四年目の今年、初めて同じクラスなった。仲のいいグループ内の一人だ。
私は気づけば派手なグループに属してしまっていた。ロンちゃんが顔もかわいくて、社交的で目立つキャラだからだと思う。結果、中学デビュー。
男子と女子が話をしているだけで「デキてる」なんてからかいの対象になった小学校の安直さは、中学校にはなかった。
入学した白羽学院中等部は、みんながはじめましてで、小学生時代の先入観なくはじめられた中学生活だったからそうなったのかもしれないし、カテゴリーが中学生になれば、地元でも同じ現象が起きていたのかもしれないけど。
加えて、白羽の校風なのか、学校行事がやたらと多く、一学年の人数もそこまで多くないので、否応なしに絆が深まりやすかったというのもある。男女関係なく、グループで遊びに行ったりすることも多かった。
とにかく、私はトラウマになる前に、中学で男子との健全な交流を再開できたのだ。
「つか、さっきの。なんかすげー重いため息だったけど、なに? 悩み?」
「いや、憂鬱っていうか気が重いっていうか」
「なにが?」
「めちゃしょーもないこと」
「しょーもないこと、大歓迎」
「……近所のコンビニで同小の子がバイトしてたことが発覚して。ま、それがびっくりしたってだけなんだけど」
「同小って、まのんってD市じゃなかった? D市からこっちの高校に通ってんの? まあまあ遠くね?」
巧がノートから顔を上げた。
私は一瞬考えて、
「高校……。行ってんのかな」
「え、中卒で働いてんの?」
「さあ……」
「さぁって、久しぶりに会ったら普通そういう話しないー?」
「あんまり仲良くなかった子だから、あいさつ程度しか」
「微妙な知り合いすぎて一番対応に困るやつか」
私は、そうなのー、と机に崩れてから、
「でさ、今日からあのコンビニに寄れないと思うと一抹の寂しさ。っていうか超ヘビーユーザだったし、帰り道に寄るのが毎日のルーティンだったし」
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