坂巻くんはツンデレをやめたい

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 次の次の日の放課後。  私が着いたとき、マスク姿の坂巻は待ち合わせをした公園にすでにいた。  スマホをさわっている。新しいやつらしい。カバーもみたことないやつになってる。 「坂巻、お待たせ」 「おう」  私に気づいて顔をあげると、スマホをポケットにしまった。 「体調どう? 大丈夫?」 「まだ咳は出る、けど熱はもうないし、元気」  あの日、坂巻は病院に行って点滴してもらったらしい。  坂巻のお母さんと連絡先交換してその後の様子は聞いている。 「ここ、寒くない?」 「へーき」    病み上がりなのに。  たまにほっぺたに感じる風は冷たくて、からからと乾いた音で地面を転がる枯れ葉が余計に寒々しい。    石のベンチに座ってる坂巻の傍らに我が家のチャリ。 「……あの、自転車ありがとう。乗り捨てでごめん」 「電動で、超ラクだったし」  無言の間。  坂巻の態度は私が思ってた感じじゃなかった。  昨日スマホが新しくなったってラインをもらったときも用件だけだったし。  好きって言われて、好きって言った、よね?  やっぱり覚えてない? それとも、なんか怒ってる? なんか冷たい。  不安に襲われそうになったとき、 「あのさっ」  坂巻は自分の膝の上で握った手をじっと見つめながら、 「すげカッコ悪ぃんだけど、この前の、熱の時のこと記憶がおぼろげで。母ちゃんに聞いても全然意味わからん答えしかしねぇし、だから、その……」  坂巻が目を合わせてこないのをいいことに、私はじっとその横顔をまじまじと見た。  マスクに隠れていてもその鼻は高くて。  家に行った時、飾ってある家族写真を見ちゃった。坂巻はお母さん似でお姉さんとそっくりで、でもお兄さんも妹さんも系統は違うけど美人さんで、ちょっとびびるくらいだった。  昔からモテてた。で、今も絶対モテる。 「だからさ……えっと」  瞬きが多い。緊張してる証拠って何かで読んだことあるけど。 「俺、あの日、熱んとき、何言った? どこまで言った!?」 「え? どこまで……とは?」 「自転車があったおかげで、真野がうちへ来てくれたのは現実のことだってわかったけど、考えれば考えるほど、なんか全部、俺の都合いい妄想なのかなって」 「……都合のいい妄想って例えばどんなの?」  坂巻は膝の上の手を何度も握りなおして、 「え、それは……それは」 「あの日はねー、『お前なんかが来たら余計具合悪くなるわボケェ!』って言われた」 「は!? そんなこと……!? ど、どんだけアホなんだよ、俺! 違う、ごめん、俺……」  ようやく目を合わせてくれた坂巻は、みるみる青ざめて、ベンチから崩れおちて土下座せんばかりになったから、 「うそ」    私は肩をすくめた。  坂巻はあからさまに慌てて、 「え? え、うそ? なにが、うそ?」
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