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ひとまず、もう一度ちゃんとベンチに座ってもらう。
「あの日、たぶん、言ってくれたと思うよ、坂巻の言いたいこと、思ってること、全部」
「ぜ、全部……マジか」
「うん、たぶん全部。ひととおりキリのいいところまで話してから、フラーってなっちゃった」
「そ、そうだっけ……」
「坂巻はさ、口下手だから、熱に浮かされてるくらいでちょうどいいかも」
「な、情けなさすぎだろ、そんなヤツ! いや、あの日に全部ちゃんと伝えられたかわかんねぇし、今、しらふで正気だから、もう一回言わせてくれ!」
坂巻はちょっと潤んだ目で、でも真剣な声で言う。
「えー、どうしよっかな」
「え、い、嫌なのかよ?」
「やり直してほしいような、欲しくないような……」
もう一度聞きたい気はもちろんあるけど、坂巻が覚えてないのは寂しくもなるけど、あの夕陽の中の坂巻の本音を、あの瞬間を、うすめたくないのもあったり。
「ねえ、今、坂巻が思ってるその都合のいい妄想ってどんなの? 言ってよ。そっちの方が知りたい。それが夢だったのか現実なのか、私が答えるから」
「いやいやいや、妄想って自分の中だけで思っとくことじゃん!?」
キレ気味に「いや、何プレイだよ。ハズイ。もう一回言う!」と抵抗するのを無理やり再現プレイに持ち込んだ。
「ま、真野が見舞いに来てくれたこと、びっくりして、信じられなくて、でも嬉しくて、けど部屋とか散らかってて、部屋着で恥ずかしいし、母ちゃんいるし」
「妄想ってか、それ感想」
私は笑ってから、坂巻の手に自分の手を重ねた。
すると、こっちがびっくりするくらい体を強張らせて、さらには手を引こうとするのをぎゅっと握る。
「あー! くそっ! だから! ま、真野が! 自転車で来てくれて! 俺のことを考えながら、来てくれて! ……俺なんかに、ありがとうとか言ってくれて……」
「うん」
「もう、俺、風呂入ってねぇのにとか、忘れて」
「そんな心配、いるの?」
「汗の臭いとか気にするだろ!」
坂巻、涙目で、やけくそ。
耳赤いし。かわいい。私も坂巻のお母さんのこと言えない。S気質あるかも。
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