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私は中学受験をして、地元の公立校ではなく私立に進学した。
合格した学校は通学するには少し遠く、通えないこともなかったが、両親は住まいの方を移すという選択肢をたやすく選んだ。
そして、中学に入る年の春に、学校のある都会のA市へ引っ越した。
中学校の学校生活は想像していたより楽しく、充実もしていて、両親には本当に感謝しかない。
あれから三年。この春に無事に高等部へ進級した。
あのまま地元の中学に行っていたら、今ごろどんなだっただろうと、ふと思う。
それは、蝉の声と古い本の匂いが重なったときに特に呼び起こされる。
甘酸っぱくもあり、苦くもある。
「まのんの今日の運勢、『思いがけないめぐり合わせに遭遇しそうです』だってー」
親友のロンちゃんが、私にスマホの画面を見せてきた。
ロンちゃんのスマホは私と同じ水色のカバー。
高校に上がるときに、制服のリボンと同じ色だと言っておそろいで買った。高等部と中等部は制服のセーラーの襟は同じだけど色が違う。紺だったリボンが、高等部は艶のある水色になった。
「占い、信じないタイプなんで、私」
「まのんがリアリストなのは十分知ってるけどー、このエノキ占いはマジで当たるから。占いっていうか人生のアドバイスだから」
ロンちゃんは中学に入ってからできた友達。
論子ちゃんだからロンちゃん。家は遠いけど、仲はすごくいい。
高校の部活も一緒。家庭科部。活動日は週一回。
「てか言ってももう放課後だよ。あと家帰るだけだし、電車通学とかならともかく徒歩だしさー。今日この先『めぐり合う』機会はなさそう」
「確かにー。ちな、ラッキーアイテムは紅茶だってさ。ま、一応覚えとけ」
「ま、一応覚えとく、けども」
そんな話をしながらロンちゃんと別れた数十分後。
家の近くのコンビニで。
学校帰りに寄るのが日課なコンビニで。
大好きなふわふわホイップロールケーキパンを毎日買ってるコンビニで。
いつものジャスミン茶のペットボトルを、私はなんとなく紅茶に変えた。
エノキ占いは全く信じてなかったけど。
「だから、おい、って!」
え、な、なに。
コンビニのレジの、店員さん……。
え。
いるはずのない場所にいるもんだから、ロンちゃんの占いの話はすっかり忘れていた。
三年ぶりに見る顔。
小学校の同級生、坂巻嶺王。
思い出すのは、三年ぶりではなかったけれど。
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