幽霊から来た手紙

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ヤスオへ  いやぁ、楽しかった。てか、1週間も手紙を書きに来なくてごめん。成仏したかと思っただろ。あいにく、まだこの世をエンジョイしてたいんだ。  幽霊っていいもんだぜ。どこに行っても入場料はタダ。壁をすり抜けちゃえばいいし、誰も見とがめやしないんだから。  最初に行ったのは、ボウリング場とかカラオケとか。案外普通だろ? なんか、生きてたころの行動パターンが抜けきらないみたいでさ。そういうとこに友達と一緒じゃなくて行くっての、なかなか新鮮で良かったよ。  ボウリングのレーン上に入って、ストライクの瞬間をいろんな角度から見るんだ。ピンが一気に倒れる音って、何回聞いてもいいもんだな。カラオケ屋では、知らないグループの個室にお邪魔して、便乗して盛り上がってみたりした。あの酔っぱらった空気にただ乗りして楽しむんだ。わざわざ気を遣う必要がないから手軽なもんだよ。  バイトしてたバーガーショップを覗きに行ったりもした。夕方だったから学生が多い。2階席の辺りにたむろして、辺りはくだらない話や誰かのウワサで満ちていた。俺はそれを至近距離から聞ける。ラジオ番組を切り替えるみたいに、俺は気まぐれにあちこちの机を飛び回った。人の話を聞くのって刺激的だ。しかも、つまらなくなったらすぐに他のところに行ける。相槌のタイミングを合わせる必要もないんだ。  俺、死んでみてよかったかも。生きてたころも、いまいち楽しくなかったし、むしろイヤなことばっかだしさ。この生活も、案外性に合ってるって感じ。  てなわけで、俺は俺で毎日を楽しんでるよ。だからお前も、もう気にすんな。もっと人生を楽しめよ。お前はまだ生きてるんだから。 ジュンより ジュン  ほんとにお前、すごいな。俺には真似できないよ。  俺だったら、誰も気づいてくれない事実にうちひしがれて、きっと何もできない。電柱の下とかに座ったまま、地縛霊にでもなってたと思う。  お前は昔からいろんな人たちに囲まれて、いつもにぎやかに過ごしてたよな。そんなお前でも、人間関係に疲れたりすることってあるんだな。意外だ。  確かに、幽霊になったお前はそんな悩みとは無縁だな。  それに、お前が楽しそうでなによりだ。  俺も頑張るよ。ちゃんと大学に行く。書きかけの原稿も、いつかきっと仕上げて見せる。完成したら、最初にお前に読んでほしい。感動の超大作にしてやる。心して待ってろよ。 ヤスオ
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