幽霊から来た手紙

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ヤスオへ  謝ることねぇよ。前も言ったけど、俺は俺で楽しくやってるんだ。  この前だって、映画館に行ったんだ。何本観たってタダなんだ、うらやましいだろ。  4番シアターの後ろの席に陣取って、朝から晩まで立て続けに、流れてくる映画を見続けた。  アクション、恋愛、ドラマにホラー。映画がこんなにいろんなのがあるって知らなかった。そこには俺の知らない人生がいくらでもあった。  でもやっぱ、何日も何週間もそうしてると、やっぱ飽きてきちゃうんだよな。最後の方は、惰性でスクリーンを眺めてた感じ。  映画が終わった後、エンドロールが流れるだろ。黒地に白い文字で、映画を作った人たちの名前が流れてく。俺の目はむしろ、その背景の黒に吸い寄せられた。なんにもない、真っ暗な空間。だれもいない、忘れられた場所。  悪い。また暗い話になっちまった。やっぱ一つの場所にこもるのってよくないな。お前もちゃんと外に出ろよ。  てわけで、俺は映画館を出て、しばらくふらふらしてたんだ。  気づいたら知らない海辺にいて、潮の香りとどこまでも続く砂浜がそこにあった。俺は波打ち際にたたずんで、水が寄せては引いていくのを見てた。  遠くの水平線に夕日が沈んでいく。俺はずっとそれを見てた。何度も何度も、夕日が沈んでいった。俺は見ているだけだった。 助けてくれ    どうしてこうなった どうして  俺が何かしたっていうのか 何がわるかった      もうゆるして   俺はしんだのに、いつまでたっても向こうにいけない どうしてお前は生きてるんだ     おれはしんだのに なんで  どうしたっておれはひとりで、ずっとひとりだ     苦しい 苦しい  くるしい  早くおわりにしてくれ ジュン  お前に何もしてやれない自分が、どうしようもなく情けない。  ずっと我慢してたんだろ、お前。あんな楽しそうに死後の生活を書いてみても、やっぱりつらいのには変わりないよな。  誰もお前が見えない。お前は誰にも触れられない。  俺には想像力がまるでなかった。作家志望なんて馬鹿みたいだ。大切な友人ひとりの心すら、思いやることができない。  それでも、俺はまだ、お前が居てほしいと思っているんだ。お前と手紙のやりとりができて、俺は本当に嬉しいんだ。救われた、と言ってもいい。  俺は、お前にまだ存在していてほしい。消えてほしくない。  これを読んでいたら必ず返事を書いてくれ。頼む。 ヤスオ
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