972人が本棚に入れています
本棚に追加
/317ページ
この場所だけが、時間の流れから切り離されたような雰囲気を漂わせている。
伸びきった雑草。
荒れ放題の土地。
朽ちた家。
放置されたままの生活用品。
壊れた建具から家の中を覗くと、目立つのは散乱する子どもの遊び道具。
枯れた井戸の滑車が、風でキコキコ鳴り響く。
さらに梓織は村を通り抜け奥へと向かう。
「まさか、あの場所へ行くのか」
冬弥は躊躇して足を止める。だがそれは一瞬のこと、すぐに梓織の後に続いた。
木々の合間に潜むカラスが、じっとこちらを見下ろしている。
冬弥はごくりと喉を鳴らした。
胸の鼓動が速い。
緊張に息を詰める。
廃村からしばらく歩いた場所に、村人がもっとも恐れる呪いの社があるのだが……。
「これは……」
簡易だが、人が踏み込めないよう設置していた柵の一部が取り壊されていた。
「いったい、誰が壊したんだ」
冬弥は走って壊れた柵を越え、社に近づく。
最初のコメントを投稿しよう!