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「僕もまだまだですね……」 「ん? 何が?」 「いえ……とりあえず何時にどこに行けばいいですか?」 「あの……本当に迷惑じゃない? 夜遅くなることが多いし……」  申し訳なさそうに呟く春香を見ていた博之が、何か閃いたかのように両手を叩いた。 「じゃあ夕食を一緒に食べるのは? 瑠維、いつも一人分作るのが面倒って言ってたよな」 「あぁ! 春香ちゃんはお店に詳しいからちょうどいいかも。それに誰かと一緒にいれば、あの人も声をかけたりしないんじゃないかな」  椿の言葉に頷く。今まで一人だったから声をかけやすかったのかもしれない。もし誰かと一緒にいれば、このまま元の状態に戻る可能性もある。 「確かに……それは一理あるかもしれない」 「それに瑠維はかなりの甘党だから、デザートも付けたら喜ぶよ」  二人の言葉を聞いて、申し訳ない気持ちがゆっくりと消えていくのを感じる。誰かと一緒に食事とデザートが食べられるーーなんて魅力的な申し出だろう。  本当にこんなことをお願いしてもいいのか、まだ心は葛藤している。だが安心して帰路につけること、そして誰かと食事が出来ることを考えれば、選択肢は一つしかなかった。 「あの……南武(なんぶ)デパートなんだけど……わかるかな?」  瑠維は少し考えてから頷いた。 「最近は早番の日が多いから、二十時くらいだとありがたいかも」 「わかりました。その時間に迎えに行きます」  申し訳ないと思いながらも、大きな安心感を手に入れたことには違いなかった。  すると横から顔を出した椿が、申し訳なさそうに瑠維を見上げる。 「春香ちゃん、これから仕事なんだけど、今日からお願い出来たりしますか? 私が行こうかと思っていたんだけど、今日実家で父の誕生日会をやるって言うから、もし行ってもらえたらすごく有難いんだけど……」 「椿ちゃんたら、いきなりはダメだよ。それに土曜日は今までは会ったことないし、大丈夫だって」  春香はそう言ったが、心の中ではやはり不安もあった。一度は断ったくせに、もし今日から来てもらえたらーーそんな自分勝手な考えを頭から追い出そうとした時だった。 「場所も覚えたいので今日から行きます」  それは思いがけない答えだった。 「えっ……いいの?」 「大丈夫です。だから……今夜の食事も考えておいてください」 「う、うん、わかった。ありがとう……すごく嬉しい」  そう言った後のほんの一瞬、瑠維が笑ったような気がして、春香の心臓は大きく飛び跳ねた。 「そろそろ仕事に行かなきゃだし、せっかくのパフェ、食べちゃうね!」  つい彼の親切心に甘えてしまった。しかしよく考えたらこんなイケメンと毎日一緒に帰るなんて、心臓が保つのか心配しかなかった。
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