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「まぁ、それ以上のことは今は秘密らしいから言わないけど。この体格だし、一緒に歩いていたら安全だと思うよ」  確かに背は軽く百八十センチを越えているだろう。今は座っていてわからないが、小柄な春香と並べばかなりの差がありそうだった。  彼が隣にいれば、あの人も近寄って来ないかもしれないーーそう思ったが、渋い顔をしている瑠維は、明らかに面倒くさそうな空気を出している。  そりゃ面倒には巻き込まれたくないよね……やっぱり自分で解決しなければいけない問題なのだと、改めて悟った。  春香は笑顔を顔に貼り付けると、 「もう、みんな心配し過ぎだよー。大丈夫、ちゃんと一人で解決できるから!」 と明るく元気に答えた。  だが椿と博之は揃ってため息をつく。 「そうやって心配かけないように強がる癖、やめた方がいいって何度もいってるよね」 「えっ……でも……!」 「昔から佐倉ってそうだよな。変なところで甘えて、変なところで強がる」 「そ、そんなことないってば……」  まさかそんなことを二人から同時に言われるとは思っていなかった春香は困惑した。確かに自分の欠点ではあるが、好きな人たちに同時に言われると、返す言葉が見つからない。  そして飛び火したかのように、博之は瑠維を睨みつける。 「お前もちゃんと『俺が送ります』って宣言しろ! 先輩命令だぞ」 「えっ、ヒロくん、ちょっと待ってってば! 彼も嫌がってるし、無理矢理は良くないかなぁなんて……」 「嫌がってなんかないよな? それならちゃんと言葉にしないとわからないんじゃないか?」  博之の眼力に負けたのか、瑠維はため息をついてから、 「嫌がってなんかいません。僕に送らせてください」 と、春香の目をしっかりと見てそう言った。 「あの……本当に大丈夫なんだよ。だから……」 「……耳たぶ、触ってますよ」  瑠維に指摘され、左手で耳たぶに触れていることに気付いた。それは不安な時についやってしまう癖だったが、そのことを知っている人は少ない。だから何故今それを指摘されたのかわからなかった。  瑠維はポケットからスマホを取り出す。 「とりあえず連絡先を教えてください。まぁ教えてくれなくても、そちらの先輩の彼女さんが教えてくれるはずですから構いませんがーー」 「別にそんなことしなくても教えるよ」  春香はカバンからスマホを取り出した。別に彼の言葉に対して何かを思ったわけではない。教えることに抵抗がなかっただけだ。 「ヒロくんの後輩くんだし。それに私たちが高校を卒業してから八年経ってるんだよ。それなのにこうやってヒロくんと親交があるなら、信用出来るってことでしょ?」 「……それは、僕ではなく先輩を信用しているということですか?」 「そりゃそうだよ。だって君とこんなに長く話したのは初めてだし。とりあえず交換する?」  春香に流されるように連絡先を交換したが、瑠維は眉間に皺を寄せて小さなため息をついた。
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