1.誘われる。

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 くるみは視界に収まったケーキを、ぐるぐる目で追いかける。こんがり焼かれた生地に、カスタードとリンゴが挟まれたシュークリーム。てっぺんにカボチャがのった、紫芋のモンブラン。紅葉の形をしたチョコが散りばめられたシフォンケーキに、抹茶のロールケーキ。  目にも美味しいスウィーツたちの迫力に、思わず喉を鳴らすくるみだったが――。   「全部、味見できるか?」  頭上から降ってきたまさかの提案に、耳を疑い顔を上げる。腕を組んでじっと見つめる彼の瞳を探れど、その思惑はわからない。 「もちろん代金はいらない。味見だけと言わず、全部平らげてくれてかまわない」  願望そのもののような言葉に、くるみは丸くした目と口を開閉した。  率直に言うと、意味がわからない。  なんで初めて来た、ただの客である自分が、厨房に連れてこられたのか。その上、試作品のケーキをタダで食べてくれと言われているのか。  どういうことですかと、質問したいのは山々なくるみだが、ツッコミどころが多すぎて、なにから言えばいいかわからない。そうして言葉を選んでいるうちに、彼の方に変化が出る。 「……それとも、スウィーツはそこまで好きじゃないか?」  どこか物憂げでクールな瞳に、くるみはズンと胸を貫かれた気がした。  スウィーツがそこまで好きじゃないかって?  そんなわけがない。ただでさえ晩御飯を食べていない、空腹時にこんないい匂いを漂わせて。  しかし、本当にこのままいただいてしまっていいものか。理由も知らないままご馳走になるなんて、なんだか怖い気もするし、ずうずうしくも感じる。   「そ、そんな、こんな、見た目も綺麗で、美味しそうで、高そうな、ケー、キ……」  食べる、食べない、食べる、食べない。  理性と食欲の狭間で葛藤しながらも、くるみの目にはスウィーツしか映っていない。やがて緩んだ口元から、よだれが覗こうとした時だった。 「なら食べてみればいいだろ」  そう言って彼は、スプーンで掬い上げたケーキをくるみの口に入れた。
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