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答えようと口を開いた瞬間。
「上から見えたんだけど、二人して何やってんの? 夏休みに」
写真部の顧問という形で参加してる井上先生が、扉の向こうから顔を出してる。このアトリエの難点は上から筒抜けだという事だ。
「カメラ教えてもらっていました!」
マイカメラを掲げて言えば「ほぉー」なんて、感心したように先生は頷く。良いところだったのに、と思ってるのは内緒。
「違うんすよ、なんか俺のこと好きなんですって!」
先輩が、うまく誤魔化した私の言葉をわざわざ否定して誤爆する。バカなの? 先生に知られたいの? それとも、先輩もやっぱり、私のこと……!
ゴールインの妄想が始まったところで、先輩の自虐が始まる。
「意味わかんなくないですか? 俺みたいな冴えない男ですよ、マジでモテなさすぎて、大学生活、恋のこの字もないまんま終わるんじゃね、って覚悟してた俺ですよ?」
「いや、まぁ、うーん、そうだな、ちょっと癖は、あるからな」
ほら、先生すら気まずそうにしてる。しかも、ちょっとずつ後ろに下がっててるの見えてる? 先輩の良くないところだよ、その早口で一気に捲し立てるところ。
「いや、でも、どうなんだ。ほら、年の差はあれど、後輩から好きって言われるのはそのー、いや学生同士の恋に干渉はしないけど」
しどろもどろになってる先生に、くすくすと笑ってしまう。でもぐっじょぶ! 先輩の気持ちが知りたいです!
次の言葉を待ちながら、ぱちぱちと瞬きをしながら先輩にアピールする。とりあえず、仮で、とかでも良いんじゃないですか? 先輩!
「告白初めてされたんで戸惑いの方がでかいっすね」
「そ、そうか」
よし、わかった。
「先生、じゃあ私たち帰るので! 失礼します!」
先輩の手を取ってアトリエを出る。あ、ちゃんとカメラとか、パソコンも持ってあげて。
「は? え? ちょ?」
「いいから行きますよ、先輩」
「どこに?」
「どこがいいですか、デート」
ピタリと足を止めた先輩を引っ張るも、さすがに力では敵わないらしい。びくともしない。
「どうしてそうなった?」
「先輩が私のこと、恋の相手として意識できないみたいなんで! いやでも意識させようと思って。おすすめは美術館、ですが、話せないので嫌です。水族館はどうですか? あ、動物園もいいですよ! デートっぽいですし! 地下鉄乗り換えれば行けるし! うんうん、円山動物園行きましょう」
先輩に有無を言わさず、捲し立てる。どうだ、秘技先輩の早口の真似! 満更でもなさそうな顔で頷くから、勘違いしそうになる。
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