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「ありがとうございました」
お礼を言ってから、園内を歩き始める。
「何を見ますか?」
「うーん、なんでもいいよ」
手を差し出さなくても、ちゃんと手は繋ぎ直されていて。もうこんなの、私のこと好きってことでいいよね……?
胃の中から全てが出そうになる。
「ペンギンだー! おしりぷりぷりしてますよ、ほら!」
ペンギンたちが並んでおしりを振りながら泳いでるのを見て、少しだけ気持ちが和む。先輩も楽しそうに眺めてくれてた。
先輩が動物好きなのもチェック済みです。もちろん!
アザラシも近くでふわふわと泳いでいて、暑い夏には少し羨ましい。
「あざらしもぽってりしてて可愛いですねぇ」
「そうだね」
ホッキョクグマは、北海道の暑さでも、と言ってももう三十度越えるから当たり前なんだけど。きついらしく、べたぁっと横になっていた。
「暑いんですね、あの子たちも」
「う、うん」
「どうかしました? あ、先輩も暑いですか? ソフトクリーム食べましょ!」
途中にあったお店でソフトクリームを買って、二人で食べる。ひんやりとしたソフトクリームが口の中から体を冷やしてくれる。
「おいしいですね、先輩!」
「うん」
「何かありました? やっぱり、私とのデートじゃいやでした?」
「いや、じゃないよ、違う!」
慌てて否定してくれる程度には、楽しかったと思ってくれてるみたいだ。それなのに、心ここに在らずな先輩に不安になる。
ソフトクリームを頬張る先輩をこっそりとスマホで撮れば、先輩が画面を手で隠してきた。
「ダメなんですか」
「いや、いいんだけど、恥ずかしい」
「なんで?」
「メガネだし」
意味の分からないことわり文句に、ぷっと吹き出してしまう。先ほどからの変な様子はメガネを気にしていた、ってこと? メガネなんて最高のオプションなのに!
「メガネ、好きですよ」
「あ、ありがとう」
さっきから一向に目を合わせてくれない先輩に焦ったくなって、ソフトクリームを食べながら歩き回る。先輩の目の先に移動するように。
私が向かえば、他の方向に視線をやる。
「もー! なんなんですか!」
コーンの部分をガリっと噛み砕けば、先輩は「うぅん」だとか「いやその」とか、曖昧な言葉を口にしていた。
ガブガブと食べ切って、おしぼりで手を拭く。先輩はもう食べ終わっていたらしく相変わらずこちらは見ない。
「次はアライグマでも見ますか?」
「う、うん」
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