優しい観客と捧げる誓音

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インターフォンのチャイムを鳴らすと、少し経って(あさ)()先輩が扉を開けてくれた。 あたしは今日、一つの重大な気づきを土産に、ここへやって来た。 「理香(りか)、わざわざありがとな。まあまあ上がり。ちょうどお茶しよ思うてたんや」 内階段を上り、先輩のお部屋に入る。やっぱり先輩のお部屋は洗練されてて可愛かった。 クッションの上にはハチワレの白猫。あたしを(いち)(べつ)して、大きなあくび。実に人に慣れた子みたいだ。猫について話したいけどここは我慢。先輩に話すべきことがあるんだから。 「理香は何飲む? 私は紅茶やけど、メロンオレも()うといた。あとはコーラか、コーヒーぐらいしか用意できひんね。まあとりあえず座り。あ、その猫な、(ゆき)ゆうねん。(なつ)こい子やから、撫でても平気よ」 猫を撫でたい気持ちも我慢。とにかく伝えることを先に言わなきゃ。 「麻美先輩」 「ん?」 「悠長にお茶してる場合じゃないです。あたし大事なことに気づいたの。()()のいそうな場所が分かっちゃった。今日なら多分確実、いえ、今日だから絶対確実にあそこにいると思うんです」 言うと先輩は、やや厳しい顔つきをした。 「ホンマか。けど、何で今日⋯、あ⋯、なるほど、そういうことか⋯」 先輩がカレンダーに目を向けた。さすが勘がいい。 「(そう)()先輩の月命日、か⋯」 ぐっと胸元で拳を握った麻美先輩は、今にも泣きそうに下唇を噛んだ。
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