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02
――骸骨剣士フローデル·シルバリュールが扉の前に現れるのは、次の日に跨ぐ時間の深夜である。
そのため、午前中に睡眠を取り、午後は休息。
陽が落ちてからルドの体を借りたジンセントの稽古を始めるのが、レイヴァたちのここ数日の日課になっていた。
「大丈夫か、ルド?」
「ボクは大丈夫だよ。だって戦ってるのはジンセントさんだし。頭の中から見てるだけだもの」
そうは言ってもなぁ、とレイヴァはルドのことが心配になる。
彼女は魔術のことを何も知らないのもあって、ルドが使用している魔術にどれくらいの負担があるのかわからない。
それにいくら戦っているのがジンセントだといっても、そのジンセントが使っているのは誰でもないルドの体なのだ。
だが、そうはいっても幸いなことがある。
それはフローデル·シルバリュールがジンセントを格下と見ているようで本気で戦っておらず、大きな怪我をせずに決着がつくことだ。
大体は骸骨剣士が、ジンセントの剣を彼(ルド)の手から飛ばして試合終了。
フローデル·シルバリュールが決闘は終わりだといえば、それまで戦っていた者は、その日はもう戦ってもらえなくなる。
そういう事情から、これはジンセントが骸骨剣士を倒すよりも、自分がメリトクラ国騎士団の作法を覚えたほうが早いのではないかと、レイヴァは思い始めていた。
それから夜が明けて、フローデル·シルバリュールとジンセントが消えた後、レイヴァとルドは睡眠を取り、午後に目を覚ました。
「でも、最初よりは打ち合えるようになってきたよね」
「え? あぁッ! まあ、最初よりは……なぁ」
野宿用の鍋を出し、簡単な食事を作りながら話す二人。
ルドの言葉を聞き、レイヴァは初日のことを思い出す。
ルドの体を借りたジンセントの最初の決闘は、それはもう酷いものだった。
ジンセントはフローデル·シルバリュールと対峙したとき、骸骨剣士が足を踏み鳴らしただけ震え、さらには握っていた剣を落としてしまったのだ。
結果それで試合は終了し、骸骨剣士は出直して来いと、ジンセントを一括して終わらせた。
弱すぎる。
いくら魔術師の体だからといっても、大の男がなぜそんなに弱いのか?
フローデル·シルバリュールとの決闘の条件である騎士の作法を知っているのだから、当然ジンセントも騎士だったのだろうに(決闘の口上でメリトクラ国の騎士団員だと口にしてる)。
あんな弱い騎士がいるものかと考えながら、レイヴァは自分の短い黒髪を掻いていた。
「ねえ、レイヴァ。なにか作戦とかないかな」
「作戦とか以前の話だと思うけどな。だって打ち合えるようになったっていっても、あの骸骨剣士はまだまだ本気を出していないんだぞ」
「そこをなんとかさ。レイヴァの知ってる奥義というか必殺技みたいなやつというか、そんなのない?」
そんなものはない。
レイヴァはそのことを、表情から伝わるように、ルドのことを見た。
そんな彼女を見たルドは、わかりやすく肩を落とす。
金髪金眼の相棒の様子に、レイヴァはまるで母親のような気分になっていた。
ルドはかなり高度な術を使える魔術師なのだが、どうも見た目のわりに子どもっぽいところがある。
ルドとレイヴァの出会いは、とある宗教団体が治める村にレイヴァが泊まったときだった。
そのときのルドは、生き神として土蔵に閉じ込められており、見てられなかったレイヴァが彼を救ってからの付き合いだ。
それから数年共に旅を続けているが、ルドは生まれたときから外の世界を知らないのもあって、未だに浮世離れしたままだった。
着るものも食べるものも、住むところにもこだわらない。
まだまだ若いというのに、これでは俗世を捨てた隠者ではないか。
そんなルドに人としての喜びを知ってもらいたいレイヴァは、そのためには金銭がいると考えた。
そういう事情から二人は、金銀財宝が眠ると聞いたこの古城を探し当て、現在に至るというわけだ。
「うーん、なんとかできないかなぁ。ジンセントさんにも事情があるみたいだし。どうにかして勝ってほしいよ……」
宗教団体の生き神として育ったせいなのか。
ルドは、どうも他人の心配を必要以上にするところがあった。
それが、レイヴァを心配させていることなど露知らずに。
「ボクの体を使ってるんだから、魔術が使えたらなんとかできそうなんだけど。それってやっぱりルール違反になるよね」
「だろうな。たしかジンセントのじいさんの話だと、一対一の剣のみ勝負だとか言って――ッ!」
「急にどうしたの、レイヴァ?」
小首を傾げるルドに、レイヴァはニヤリと笑みを返した。
ジンセントが、骸骨剣士フローデル·シルバリュールに勝つ方法を思いついたと。
このやり方なら、たとえどんなに弱くとも剣が振れれば勝てると。
そう言ったレイヴァは、食事を終えたら準備に取り掛かろうと、ルドに勝つ方法を説明し始めた。
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