03

1/1
前へ
/4ページ
次へ

03

――その日の夜、いつものようにジンセントが二人の前に現れた。 ルドは、レイヴァが考えた作戦を伝え、彼がそれを受け入れるかを訊ねた。 そう、これは騎士の決闘なのだ。 ジンセントが作戦を拒否したら、もう戦ってもらえなくなる。 実際に体を貸して戦っているのはルドだが、フローデル·シルバリュールという骸骨剣士は、騎士の作法に則った決闘しか受けないため、ジンセントの協力は必須だ。 レイヴァとルドが見つけた古城のあった国――メリトクラ国の決闘の作法を知っている人間など、正直いってこの老人以外にいないだろう。 たとえいたとしても、その人間を探すだけで何年もかかってしまいそうだ。 かといって、このまま正攻法でジンセントがフローデル·シルバリュールに勝利するなど、それこそ何年、いや何十年経っても無理だとレイヴァは判断した。 ここはジンセントに自分の考えた作戦を受け入れてもらわないと、この古城にあった宝を諦めたほうがいいとまで彼女は思っている。 「……あまり褒められた方法じゃねぇが、それでもあの人に勝てるなら、それもいいかぁ……。ルールは破ってねぇし……」 ルドの気を遣った説明を聞いたジンセントは、なんだか申し訳なさそうに答えた。 老人の返事を聞いて、レイヴァはホッと胸を撫で下ろした。 ルドのほうも安堵の笑みを浮かべているが、レイヴァは彼が自分とは違う理由で安心していることに気づいていた。 それは、フローデル·シルバリュールに勝って宝を手に入れることよりも、ジンセントが納得してくれたことだ。 そもそもルドは宝に興味などないことを、レイヴァは最初から知っている。 彼が富やそれで手に入れられる楽しみに関心がないことはわかっている。 だからこそ金銀財宝で得られる人の幸福というのを、彼女はルドに教えたいのだ。 「よし、じゃあやってくれるなら後はそれこそあんた次第だぜ、ジンセントのじいさん。いくら作戦が完璧でも、あの骸骨剣士を倒すのはあんたなんだからな」 レイヴァは念を入れるようにジンセントに声をかけ、作戦の細部を伝えた。 その後、夜も深まり、宝がある扉の前にフローデル·シルバリュールが現れる。 すでに待機していたルドの体を借りたジンセントと、いつも通り壁に背を預けたレイヴァは、変わらず仰々しく剣を構える骸骨剣士を見据える。 「我はメリトクラ国の守護神……騎士団長フローデル·シルバリュールである。この先を通りたければ、我に決闘で勝利することだ」 口上を述べ、剣を構える骸骨剣士。 レイヴァが「はいはい」と言いたそうな顔で「知ってるよ」と内心で呟くと、対峙するルドの体を借りたジンセントは彼に応える。 「我はメリトクラ国の騎士団員が一人……ジンセント·アルバール! この剣にかけて、今日こそフローデル·シルバリュールを打ち破ってみせる!」 こちらも全く同じ台詞だが、今夜は違う。 作戦がある。 必ず勝てる方法を事前に仕込んで挑んでいる。 四度目の正直というのは表現としてはおかしいが、間違っていないのだからしょうがない。 今回こそ実力で劣るジンセントがフローデル·シルバリュールを倒すのだと、レイヴァはゴクッと(つば)を飲み込んだ。 「では、参る!」 骸骨剣士が動く。 剣を振り上げ、ルドの体を借りたジンセントへと斬りかかる。 三日間見続けた光景。 だがジンセントも多少は腕を上げているため、初日のときのように握った剣を落とすことなく、骸骨剣士の剣を防いだ。 斬撃を剣で受け、激しく後退しながらも、格上の相手に食らいつく。 それでも実力差が縮まるということはない。 多少腕が上がったとはいえ、それはあくまでレイヴァが指導した結果と、ルドの体が剣の扱いに慣れてきたというだけだ。 当然、このままでは打ち負ける。 その証拠に、今夜もフローデル·シルバリュールは手加減をしている。 しかし、そこに隙が生まれる。 「もう少し、もう少しだぞ……」 壁に背を預けていたレイヴァは身を乗り出していた。 けして手に汗握る決闘とはいえないが、必死にくらいつく相棒の姿をしたジンセントを見て、彼女の応援にも熱が入っていく。 決闘は依然としてフローデル·シルバリュールが優勢。 ついに壁まで追い詰められたジンセントは、もうこれ以上は後退できなくなる。 だが予想通り、予定通り。 レイヴァの目論見通りの位置で、ジンセントはここから奮闘した。 骸骨剣士とその場で激しく打ち合いを始める。 そして、ついにフローデル·シルバリュールを倒す作戦が実行された。 「むぅッ!? こ、これは!?」 ジンセントを追い詰めていたフローデル·シルバリュールの足元が、突如として輝き始めた。 その輝きからは魔法陣が浮かび上がり、骸骨剣士の動きが止まる。 これはルドがレイヴァの指示を聞き、昼間のうちに仕込んでいた魔術トラップだった。 発動条件は、一定の時間その場に(とど)まった者を拘束するというものだ。 アンデッドに通じるかはわからなかったが、どうやら不死者となったフローデル·シルバリュールにも効果はあったようだ。 だが、それでも普通の人間なら完全に固まってしまう魔術だが、骸骨剣士はカタカタと身を震わせている。 もしかして魔術を解けるのか? なら急がねばと、レイヴァが声を張り上げる。 「今だぞルド! いや、ジンセントのじいさんッ!」 「うおぉぉぉッ!」 レイヴァの声に応えるように、ルドの体を借りたジンセントは剣を振り落とした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加