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01
朽ち果てた古城で、金色の髪と瞳を持った青年と黒く短い髪の女性が剣を打ち合っていた。
周囲には松明が付けられ、夜でも昼間と変わらない明るさになっている。
金色の髪の青年の名はルド。
その細い体は、どう見ても剣の扱いに慣れているとは思えない貧弱なものだ。
対する黒髪の女性レイヴァは、手足が長く、その面構えからして風格のある剣士だった。
「よし、この辺にしておくか」
「はぁ、はぁ……。そ、そうだね……。そろそろ時間になるし」
二人が剣を打ち合うのを止め、剣を収める。
それから松明を手に取って、その場から移動しようとしていた。
かがり火を手にしながら、ルドが言う。
「ジンセントさんもいいですか?」
「ああ、問題ねぇよ」
暗闇に声をかけると、そこから返事が返ってきた。
しわがれた低い声――老人の声だ。
レイヴァとルドは老人の声を聞くと、古城の大広間からさらに奥へと進む。
廃墟となった城内を歩き、そしてとある扉の前で足を止めた。
二人が待っていると、その扉の前に甲冑姿の骸骨がどこからか現れる。
「我はメリトクラ国の守護神……騎士団長フローデル·シルバリュールである。この先を通りたければ、我に決闘で勝利することだ」
骸骨剣士は慇懃に名乗ると、剣を構えた。
まるで王宮で行われる貴族の決闘のような、儀式に則った作法のような動きをみせる。
そんな骸骨の姿を見たレイヴァは、うんざりした表情をすると、廊下の壁に背を預けた。
一方でルドのほうは、慣れない剣を腰から抜き、フローデル·シルバリュールと名乗った骸骨の前に出る。
「じゃあ、ジンセントさん。よろしくお願いします」
「おう。あんちゃんもよろしくな」
老人ジンセントの声がルドに答える。
すると、ルドの体を光が包んだ。
それから彼の表情や仕草が変わり、骸骨剣士に向かって口上を述べ始める。
「我はメリトクラ国の騎士団員が一人……ジンセント·アルバール! この剣にかけて、今日こそフローデル·シルバリュールを打ち破ってみせる!」
ルドの体でジンセントが声を張り上げると、骸骨剣士と共に深く頭を下げていた。
傍で見ていたレイヴァの顔がさらに苦い顔になると、ルドと骸骨が剣を打ち合い始める。
彼女が呆れるのも仕方がない。
なにせこの決闘は、レイヴァとルドがこの古城に来てから三日間も行われているのだ。
「いくら宝を手に入れるためだからって……見ず知らずのじいさんに体を預けなきゃいけないってのはなぁ……」
レイヴァが愚痴っぽく呟いた。
この状況は元々、レイヴァとルドがこの古城にある宝を手に入れるために始まったことだった。
二人は宝のある場所を発見したが、何をしようが扉を開けることができなかった。
それでも諦めることができず、扉の前に居続けているうちに夜になると、どこからともなく骸骨剣士フローデル·シルバリュールが現れ、先ほどの口上を述べたのだった。
当然レイヴァは剣を抜き、目の前に現れた異形の怪物を斬り捨てようとしたが、フローデルは礼儀のない者と剣を交えるつもりはないと言い、ただ黙って扉の前に立っているだけだった。
レイヴァとルドが戸惑っていると、そこへ老人ジンセントの声が聞こえ、老人は二人に説明を始めた。
それは、この古城の主だったメリトクラ国の王が魔術を施し、国で最強の騎士だったフローデル·シルバリュールを門番にして宝を守っているというものだった。
扉の中にある宝を手に入れるには、フローデル·シルバリュールを倒すしか道はない。
門番さえ消えれば、扉は自然と開くようになっていると。
だったら話が早いと、レイヴァはやる気になってフローデル·シルバリュールへと斬りかかったが。
どういうわけか、フローデル·シルバリュールにレイヴァの振った剣は通らなかった。
何度斬りつけても刃はすり抜け、骸骨剣士はその場で佇んでいるだけだ。
「無駄だよ、ねえちゃん。フローデル·シルバリュールはメリトクラ国のやり方で挑まないと、戦ってくれないんだなぁ、これが」
ジンセントはさらに説明をした。
どうやらこの骸骨剣士は、騎士の作法に則った決闘で倒さなければいけないらしい。
だが、メリトクラ国騎士団の決闘の作法など、レイヴァもルドも知りはしない。
いくら戦いたくても戦えない。
ここまで来て宝を諦めるしかないかと、レイヴァが肩を落としていると、ジンセントが提案をした。
「わしならわかるぞ。そこで一つ頼まれてくれねぇか」
「頼みって?」
ルドが小首を傾げると、ジンセントは嬉しそうに話した。
金色の髪のあんちゃん――ルドは見た目からして魔術師なのだろう?
ならば魔術を使って、自分の体に相手の意識を移すことはできないか?
もはや年老いた自分では、騎士団長であるフローデル·シルバリュールには敵わないが、若い男の体を使えば勝機はあると。
話を聞いたレイヴァは間髪入れずに反対したが、ルドはジンセントの提案を受け入れた。
彼は納得のいかないレイヴァを説得すると、ジンセントのいう魔術を使用できることを老人に伝えた。
こうして宝の門番と戦うことができるようになったのだが、ジンセントは騎士の作法は知っていてもいかんせん弱すぎた。
ルドが剣士ではないというのもあるのだろうが、明らかに未熟さがわかる動きだった。
「アタシの体が使えりゃ、まだマシなんだろうが……」
レイヴァがそう呟くと、今回で四度目の決闘もまたジンセントの敗北で終わった。
彼女は老人に体を貸すなど絶対に嫌だったが、それでも骸骨剣士に勝つためには仕方がないと思うようになって提案したのだが。
どうやらルドの意識を移す魔術は、自分の体にしか使えないらしい。
ならばということで、レイヴァが彼の体を借りたジンセントの稽古をつけてやっているのだが、所詮は付け焼き刃――今夜も負けてしまった。
「はぁ、はぁ……。ジンセントさん、ごめんなさい……」
「あんちゃんのせいじゃねぇ、わしが悪いんだよ。すまんな、弱くてよぉ」
互いに反省し合うルドとジンセントを見たレイヴァは、これはどうしたものかと肩を落とした。
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