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おばあちゃんは旅行が大好きだった。
今は、どこにも行けず病院のベッドで横たわっている。
もう退院することはないと、お父さんが言っていた。
おばあちゃんは家にいた時みたいにいっぱいはしゃべれない。
だけど、時々ぽつりぽつりと私の顔を見てなにか話してくれる。
おばあちゃんの声はすごく聞き取りにくい。
それでも、私はおばあちゃんがなにを言おうとしているのか必死で聞く。
よくわからないけれど、それでも私は頷く。
私もおばあちゃんに話しかける。
私がよく聞き取れないのと同じで、おばあちゃんにもよく聞こえていないかもしれない。
だけど、おばあちゃんも私の言葉に首をゆっくり動かして頷いてくれる。
「ねえ、おばあちゃん」
私はいつものように話しかけた。
「おばあちゃんはいつも旅行に行ってたでしょ? これから行ってみたいところとかある?」
おばあちゃんは大好きな旅行の話をよくしてくれた。
どこどこに行ってすごいものを見たとか、その土地の美味しいものを食べたとか。
私はそんなおばあちゃんの話を聞くのが好きだった。
おばあちゃんも旅行の話をしてくれるときは、いつも楽しそうだった。
だから、もしかしたら、旅行の話をすれば元気になってくれるんじゃないかと思った。
新しく行きたいところの話でもすれば、退院する元気もわいてくるんじゃないかと思った。
おばあちゃんの口がもごもごと動く。
「なに?」
私はおばあちゃんの口元に耳を近づける。
「……そうだ、天国、行こう」
途切れ途切れだったけど、私にははっきり聞こえた。
なんだか、笑ってるみたいな声だった。
おばあちゃんが大好きだって言ってた、CMのフレーズ。
もちろん行き先は天国じゃないけど。
シャレにならないよ、おばあちゃん。
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