【第4花】キキョウ

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「けほっ、ごほっ……すみません。こんなになっちゃって」  雨の森。洞窟。  ナズナは咳き込みながら横になっていた。  昨日大雨に打たれたのが原因だろうか。  セリは外の様子を確認しながら、ナズナの隣にいた。 「……どうだ」 「ごめんなさい、割と辛いです……放っておけば治ると思ったんですが……」    近くに郷は見当たらない。  幸いなことに蟲の気配もなく、この場所は安全だった。  しかしこのまま洞窟にいても回復の見込みは薄いだろう。  毛布や布で体を温めてはいるが、決して良い環境とはいえない。 「ヒトの部分がやられたんでしょうか……いつもならすぐ治るのに……」  食事は水で済ませているが、明らかにナズナは弱っていた。  今朝からは熱も出ている。  傷を負って倒れたことは何度もある。だが病気は久々だった。 「もしこのままだったら、置いていって構いませんので……」 「そうか」  セリはそう言って立ち上がった。 「あ、もう行きます……? 」 「郷を探してくる。近場に無ければゴギョウを連れてくる」 「あはは……駄目ですよセリ。どっちも無理ですよ」  ナズナは力無く笑って、激しく咳き込んだ。 「ちょっときついので、寝ますね……眠れれば、ですが」 「……暫くしたら起きろ」 「あはは、どうでしょう……」 「もし」  洞窟の中に何かが入ってきた。  セリは咄嗟にナイフを抜き、ナズナの前に立つ。   声の主は穏やかだったが、セリは油断せず距離を取る。 「お困りですか。特にそちらのお嬢さん」  若い男だった。  薄紫の袴を纏った美しい顔立ち。  頭には袴と同じ色の学帽。雨に濡れ、澄んだ雫が垂れる。 「……誰だ」 「キキョウと申します。永遠(とわ)の命を求め彷徨う、旅の医者にございます」  曇り空。暗い洞窟の中で、紫の瞳が仄かに光った。
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