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「セリ、『る』ですよ。早く続けてください」
「……瑠璃」
「リール。はい。『る』です」
「……」
夜が来た。
話の種も尽きたセリとスズシロは、ひたすらしりとりをしていた。
無口なセリにとっては拷問とも言える遊びだったが、その様子すらスズシロには面白いものだった。そして彼が「る」から始まる言葉を多く知っていることに、細やかな驚きを感じていた。
「けっ。もうちょっと面白ぇことは出来ないのかよ」
そんな二人の茶番を肴に、ツタヤシロの主人は酒を煽っていた。
木に縛られた生物を鑑賞している時点で中々破綻しているのだが、ここにいる三人は皆、近からず遠からずな感覚の持ち主だった。
「黙ってください。磔の身の私たちに何を期待しているんですか」
「この前来た奴らは良かったぞ。今まで殺してきた蟲の中で一番強い奴の話をしてくれた。確か偽花魔王蟷螂って奴でな。うちの武器でとどめを刺してくれるなんざ、職人冥利に尽きるってもんよ」
「ではもっと凄い敵の話をしましょう。ホトケノザって言うんですが」
スズシロはさも当たり前のように口にする。
セリも以前彼の根城で起こったことを思い出すと、小さく笑った。
「なんだホトケノザの野郎がどうした。そういや最近こねぇな」
「……蟷螂より厄介な奴だろう」
「んなこた知らねぇけど、あいつがどうしたよ」
「人間の天敵となる生き物を作って放そうとしていました」
それを聞いた主人はふぅんと鼻を鳴らすと、酒を追加で注いだ。
「妙だな。んな話聞いたことねぇぞ。やるって決めたらすぐやる野郎だろ」
「……俺達が止めた」
「へぇそうかい。てめぇらやっちまったのかい。あいつの心臓の制作には俺も手を貸してやったんだが、てめぇらがやっちまったのかい。ふぅんそうかい」
嫌味ったらしく言う主人だったが、その口調はどこか楽しげだった。
景気良く酒をぐっと飲み干すと、いい月だと言わんばかりに空を仰ぐ。
「こいつぁ面白れぇ話だ。ホトケノザをぶちのめしたってことは、あいつの身体に相応のダメージを与えたってことだな。つぅことは近いうちに、心臓やら武器の修理でうちに来るってことだ。よくやったなてめぇら」
「出来れば手を貸さないで頂けると嬉しいのですが」
「馬鹿言うな。あんだけ面白れぇ生き物いねぇだろうが……そうそう。ホトケノザをやっちまったってことは、うちの商品を壊したのと同義だよな。弁償の代わりと言っちゃアレだが、修理代を二割増しで勘弁してやらぁ」
「話さなければ良かったですね。セリ」
セリはもう眠っていた。
スズシロはともかく、主人の為に余計な体力を使うつもりは無かった。
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