6人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日が来ても、二人は相変わらず磔のままだった。
体内を循環する水や諸々が、胸に刺さった武器に伝わっていくのが分かる。
決していい気分では無いのだが、武器の状態は自分の命に直結する。
スズシロのスズナ自慢も底を尽きると、二人はいよいよ静かになった。
「洋服屋さん……」
「おっ、買ってく? お姉さんがお金出してあげるよ? 」
そんな二人を尻目に、ナズナとスズナは街で買い物を楽しんでいた。
当初はセリを心配していたナズナだったが、「あれが普通」なら気にすることはなかった。それより久々にたっぷり自由時間が取れたのだ。これを満喫しないのは余りにも勿体無い。
「でも買った所で、旅の途中で絶対破いちゃうんですよね」
「そうなのそうなの。この前お城のパーティーに呼ばれてね。慌ててドレス仕立てて貰ったんだけど、重いしここ以外でいつ着るのって感じだし、出る時に売り払っちゃったんだよね……買った時の半分にもならなかった」
「ですよね。私に買われる方が可哀想なので、別にいいです」
ナズナは背中に背負った大雀蜂の針を握る。
蟲を狩って生活する蜂の針は、セリのナイフにも劣らぬ一品だった。
「武器」として造られたものではないので、取り回しにはやや難もあるが。
「持ち物は少ない方がいいですよ。旅をするなら身軽が一番」
「でもさナズナちゃん。あたし達にも、浮いた話のひとつくらいあってもいいなーって思わない? 偶にはちょっと着飾って、男でも引っ掛けたいなって」
それを聴いて、スズナは本能的に足を止めた。
「……えっ」
「あたし達の周りって碌な男いないでしょ。セリは喋らないし、ホトケノザは色々終わってるし。なんていうか、本能的に雄を欲しているって感じ? 」
ナズナは咄嗟に当たりを見渡した。
この話を聞かせてはいけない人物が、スズナの極めて近くにいると感じた。
「ねぇナズナちゃん。植物と人間ってうまくいくと思う? やっぱり価値観の違いとか、一緒に暮らしたらあるのかなぁ」
「ど、どうでしょう……」
「だよねぇ。終わったらスズシロにも聞いてみよ」
「絶対駄目です」
「なんでよ」
「スズナ姉さんの為です。絶対に言っちゃ駄目です」
植物同士でも分からないことってあるんだなぁ。
スズナはぼやきながらも話をそこで終えた。
「……一応。一応ですよ。植物と蟲がうまくやっていた例なら」
「おぉっ、それ教えてよ‼︎ だったら植物と人も……‼︎ 」
「ホトケノザさんとテトラさん」
「却下。論外」
昼を回ると、磔が終わる時間が見えてきた。
残された貴重な自由時間をどうしようか。
るんるんと話しながら、ナズナとスズナは再び街をぶらつくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!