6人が本棚に入れています
本棚に追加
そして夜が来た。
ナズナとスズナはツタヤシロの店に向かい、扉を叩いた。
「おぉ来たか。スズナとナズナだな」
「逆です。私がナズナで、髪が緑なのがスズナ姉さんです」
「あぁそうかい。あんたら名前がややこしくってな。もうちっと分かりやすく区別がつかないもんかねぇ。特にスズナなんてカブでいいだろ」
スズナは店の主人を叩き潰さん勢いで拳を振り上げたが、それを必死にナズナが止める。彼を攻撃してはいけない。ただそれだけの思いだった。
「そ、それより武器の方は……」
「もうすぐだ。そろそろ引っこ抜きに行く所だが、あんたらも見物するかね」
主人は二人の答えすら待たず、セリ達の所に向かった。
彼の提案を断る理由もなく、ナズナとスズナもついていく。大樹に磔になった相棒達を前に、二人は一切の悪気もなく、ちょっと笑ってしまった。
「どうだ面白ぇだろ。俺ぁこれを見るのが生き甲斐でな」
「終わったなら早く抜いてください。それとナズナさんはともかく、姉さんは笑わないでください。大事な妹の危機なんですよ。心配するのが筋でしょう」
「妹を心配する……? 」
未開の部族の風習を目撃したかのように不思議な顔をするスズナ。
まぁいいや、と投げられた話題を置いて、妹分の前に向かう。
「わーぐっさり刺さってる‼︎ スズシロ、これって痛いの? 」
「もう慣れましたが不快です。でも姉さんが来たので平気です」
「これって抜いたら色々出てくるの? 体液的なあれがどばーっと? 」
自分を慕う妹分が磔になっているというのに、刺さった槍を楽しそうに握るスズナ。「やりたきゃ抜いてもいいぞ」と言う主人と一種に盛り上がる。
そんなちょっとネジの外れた二人を横に、ナズナはセリに声を掛けた。
「元気ですか。セリ」
「……問題ない」
「楽しかったですよ。色々なお店回って、美味しいもの食べて」
「……」
セリが渋い顔をしたのを見て、ナズナはくすっと微笑んだ。
「後で一緒に行きましょうね」
「……そう思うなら抜け」
ぶっきらぼうだが、どこか優しい返事だった。
ナズナはセリの胸に刺さったナイフを強く握ると、目一杯の力で引き抜く。
「……っっっ⁉︎ 」
「おいおい嬢ちゃん⁉︎ そんなに力入れて抜いたら痛ぇだろうがっ‼︎ これは優しくそぉっと抜くもんなんだよ。あぁほら、体液が洪水じゃねぇかっ⁉︎ 」
「えぇっ⁉︎ ど、どうするんですこれ⁉︎ 栓すればいいんですかっ⁉︎ 」
「っっっっ‼︎‼︎」
「だぁぁだからってもう一回刺すな‼︎ いいからそこどけっ‼︎ 」
「ははははいっ‼︎ 」
あたふたと数回ナイフを抜き差しした後。
セリは息も絶え絶えの状態で解放された。
スズシロはけろっとして解放され、新調された槍を優雅に振っていた。
「どこで差がついたんでしょう」
「ナズナちゃんが意外とぽんこつだったってことかなぁ」
「〜〜〜〜〜っ‼︎ 」
セリはげっそりしながら。
ナズナは顔を真っ赤にしながら、しょんぼりと立ち竦んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!