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ナイフと槍。
ふたつの武器は多少綺麗になった程度で、外見に然程の変化はなかった。
ナズナが持ってみても、これまでと何が違うのか分からない。
それでも持ち主である二人は、出来栄えに満足しているようだった。
「何が違うんだか分からないけどさ。胸に刺されて一晩過ごして『前とおんなじですー』じゃ、ただの損で勿体無いよね」
「素人にゃ分からねぇよ。仕事の邪魔だからさっさと行きな」
主人はぶっきらぼうに言うと、受け取った金の勘定を続けた。
「大事に使え。で、偶には程々に壊せ」
「……どっちだ」
「壊れねぇと俺の仕事が無くなるだろうが」
主人は金額がぴったり揃っていることを確認すると、セリとスズシロのことを見た。細い目の奥に灯る光は、歳に似合わぬ輝きを放っていた。
「後はあれだ。暫く顔を見ねぇと、死んだんだかどうだか分からねぇだろ。死んだら金蔓が無くなっちまうから、俺を安心させる為に来いってことだ」
「寂しいってことですか」
「おっとナズナ。それ以上言ったらてめぇの大雀蜂の針を折ってやらぁ。余計なことは口にするもんじゃねぇぜ」
それは肯定とも受け取れる返答だった。
四人はそれとなく別れを告げると、ツタヤシロの店を後にした。
「ではセリ。早速あなたで切れ味を試しても? 」
「……俺も試したいが」
「ちょいとお二人さん。無駄に怪我する必要はないでしょ。それより蟲に困っている人探して、やっつけて報酬貰おうよ」
「この郷、蟲の被害は少なそうですけどね……」
四人が再びツタヤシロの店に戻ることはあったのか。
それはここにいる誰にも分からない未来だった。
「明日はナデシコの奴が来るんだっけな。ったく少しは休ませろってんだ」
主人は腰を上げながら、どこか楽しそうに愚痴った。
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