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「そこの。ちとよいか」
澄んだ水が流れる河原で、二人は声を掛けられた。
小さな少女だった。どこか異国の香が漂う、艶やかな服を纏っていた。
「取って食おうという訳ではない。そう怯えるでないぞ」
「えっと、もしかして迷子さんですか……? 」
「笑止。童と一緒にして貰っては困る」
二人のうちの片方、白い服が答えたが、少女は鼻で笑った。
妙に尊大な態度。見た目の割に堂々とした振る舞い。
敵ではないとは思いながらも、ただの子供とも思えなかった。
「なに容易いことよ。セリとナズナという二人を探している。そちとそこの男が違うと言えば、わしは何もせん。そうだと言えば要件を伝えるだけじゃ」
腰には美しい鞘の刀が下げられていた。
伊達や装飾にしては重厚な逸品だった。それを所有しているということは、やはり彼女が只者ではないことを匂わせていた。
「聴き覚えのある名前ですね。その二人は何かしたんですか」
「ある郷で指名手配されておる。五人を殺害し住居に火を放ち、挙句の果てに郷長の家で飼っていた犬を誘拐した凶悪犯、と聞いた」
「とんでもない悪人じゃないですか。犬を誘拐するなんて」
白い服は呆れたように言い放つと、少女も深く頷いた。
「全くじゃ。して質問に戻るが、二人の居場所を知っておるか」
「さぁ。どこに行ったんでしょうね」
白い服の頭の上には、小さな白い毛玉が乗っていた。
舌を出しながら小刻みに息をし、可愛らしい尻尾を振っていた。
「そうかそうか。犬を連れた二人組で傷だらけ。件の郷の近く、人目も少ない山奥に潜んでいたものだから、気になって声を掛けてみたのじゃ。すまぬの」
「どうもです。それはそうと綺麗な刃ですね。切るには勿体無いくらいの」
艶やかな桃色の花に彩られた鞘から、鈍い銀色の刃がすらりと現れた。
その音とほぼ同時だった。
今まで無言を貫いていた黒いジャケットの男がナイフを抜いたのは。
「ふむ。蟲も獣も多く切ってきたが、同族は初めてかの。大人しくしていれば無駄に傷付けはせんぞ。指名手配犯とは言え、殺すのは哀れじゃからの」
「そうですか。残念ですが、提案には乗れませんね」
「ほっほ。予想通りの返事じゃな」
毛玉が「わん」と鳴いたのが合図だった。
二つの刃がぶつかり合い、川面に火花が飛び散った。
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