6人が本棚に入れています
本棚に追加
荒事には慣れている。護衛の経験もある。
この男の側にずっといるのは退屈だった。
「動物病院を新たに増やそうと思う。早速手配を頼むよ」
「しかし郷長、資金は……」
「犬にあてる分は潤沢にあるだろう。彼らが幸せになれば、偉大なるお犬様も我々を祝福してくださる。生活が厳しいのは我々の敬意が足りないからだ」
多くの郷を回ってきたが、この理屈で成功した場所を見たことがない。
あくまで持論だが、この世界を救う超常的な存在などいないのだと思う。
仮にそんな存在がいるのだとしたら、何故に食物連鎖という犠牲を強いる仕組みを作ってしまったのだろう。無償で酸素を生み出す植物は、好気性の動物の奴隷と言っても過言ではない。酸素を吐き出した礼もせず、彼らは植物食でのうのうと生きている。文字通りの食い潰しだ。
「いやはやあなたがいるからですかな。最近はいつも視線を感じていましたが、今日は安心して眠れそうですぞ」
安心して眠っている場合でもないと思うが、適当に相槌を打つ。
遅かれ早かれ、この男は今の立場を追われるだろう。生死に然程の興味はないが、自分の目の前で血が流れるのは気分が悪い。せめて賊たちも、自分がこの郷にいる間は大人しくして欲しいものだ。
「ほら。こちらが我が家の犬ですぞ。かわいいでしょう」
白いまんまるが戯れついてくる。
動物は嫌いではない。理解できる言葉を発さないからだ。
「この子は私の宝物です。自分の命よりも大事なものです」
言葉の意味が分かると、その裏にある真意を探らずにはいられない。
そしてこの日の夜。事態は起きてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!