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案の定、郷長からはこっぴどく怒鳴られた。
無理もない。侵入を許した上に庭の木を切断。
それでいて捕まえることも叶わず、犬まで攫われたのだから。
「せっかく頼んだのになんだこれは。犬の重要さはよく分かっているだろう。自分の身に代えてでも守るという気は無いのかね」
無い。他人の獣一匹と交換する命など。
一応こちらに非はあるので、「責任をもって取り戻す」と伝える。
しかし提案したらしたで「そう言って逃げるつもりだろう」「君がいない間に命を狙われるかもしれない」、挙げ句の果てには「まさか最初からグルで、賊を手引きしたんじゃないだろうな」など、散々と出鱈目を言われる始末。
「えぇぃお前たち。こいつを地下牢に閉じ込めておけ」
郷長の一声で、自分は古びた地下牢に連れて行かれた。
もちろん刀は没収。服以外の持ち物も全てだ。
なぜ家に地下牢が必要なのかと疑問に思うが、郷長が郷長だ。
概ね命を狙われるのも、この辺りに理由があるのだろう。
「犬はこちらで取り返す。君はそこで大人しくしていろ」
妙に焦ったような口ぶりの後、郷長は去っていった。
犬が奪われたことがそこまで重大なのだろうか。
自分の命が守られたことに安堵すらせず、寧ろ昨日より余裕が無く見える。
「抜け出せなくもない、か」
自分の斬撃を受け止めた以上、賊は同族。根なし草である可能性が高い。
……普通の人間が捕らえるのは難しそうだ。
「このままでも良いが、わしの刀を止めた奴は気になるのぅ」
鉄格子を掴み、少しばかり力を込める。
身体から小さな光がぽつ、ぽつと溢れ、握った箇所に集まっていく。
「ふんっ」
植物の根は、時に岩をも貫きどこまでも伸びていく。
となれば錆びた鉄格子を曲げるなど、今の自分には容易いことだった。
「殴る蹴るは久々じゃ。加減せんとな」
刀を取り戻したら外に出よう。
そしてあの二人を探しに行こう。同族と会うのは久々だ。
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