7796人が本棚に入れています
本棚に追加
一条はフロアを経理課に向かって歩いてきて、クリアファイルに入った領収書を亜由美のデスクに投げるように置いて「これ、処理しといて」と去ってゆく。
「困ります。以前にもお伝えしましたが、受領書の作成と計上書類を添付してください」
亜由美がそう声をかけると、その場で足を止めた一条に強く睨みつけられた。
「忙しいんだよ! そんなことやっている暇はないんだ!」
一条はまるで地団駄を踏む子供のようだ。
そんな感情的な一条にも、亜由美は静かに言葉を返す。
一度、きちんと伝えなくてはいけないと思っていた。
「一条さん、皆さん暇だからじゃなくて、それがルールで必要だからきちんとして下さるんです。不備があるものは受け取れません。受領書がないものも」
「そうやって書類の受理を拒否するのが杉原さんのやり方ということなんだな。よく分かった。この件は営業部から、正式に苦情としてそっちの上司にも申し立てるからな!」
「どうぞ」
一条の剣幕はいつもにも増して激しくて、彼が踵を返したあとは、さすがに震えが止まらなかった。
今日に限って、いつもこういう時、一条にひとこと言ってくれる奥村が席にいなかった。
運の悪いことに、課長までもが席にいなかったのだ。
今日の剣幕は課長がいないからこそ、余計に激しくなったものだったのかもしれなかった。
最初のコメントを投稿しよう!