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一条が姿を消したあと、亜由美は大きくため息をつく。
「ごめんね、杉原さん。一条さんの剣幕がすごくて口がはさめなくて」
亜由美の向かいにいた先輩がそっと声をかけてくれた。
「いえ……」
確かに突然来て、まくしたてるようにして帰っていったのだ。なかなか口を差し挟めなかったとしても、仕方がないことだろう。
「一条さんが言うことにも一理あるわよ」
亜由美の後ろから一人の女性社員が声を掛けてくる。
穏やかではない雰囲気だ。腕を組んで亜由美を睨むように見ていた。
営業課担当ではなく、おそらく一条のファンの一人なのだろう。
「営業社員は忙しいんだし、忙しい社員のために計上を手伝うくらいはいいんじゃないの? 杉原さん、融通が利かないって言われてるの、知ってる? 少しは気を利かせてもいいんじゃない?」
「じゃあ、あなたが計上を手伝えば?」
亜由美に向かって言い募っていた女性社員の、さらに後ろから奥村の低い声が聞こえた。
打ち合わせで席を外していたが戻ってきたものらしい。奥村は手の上にパソコンを乗せて立ったまま、冷ややかに女性社員に向かって口を開いた。
「一人にそれを許したら、みんなの分もやらなきゃ不公平でしょ? システム計上でさえいい加減で科目の間違いも多いし、それを訂正する作業だけでも大変なのよ。知っているでしょ?」
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