そうだ、異世界へ行こう

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 だが、期待に反して少年はむくりと起き上がった。周囲の騒めきの中、少年は肩を竦める。 「すみません、立ち眩みで……」  バスの停留所だ、当然、乗客を乗せるバスは減速していた。少年が立っていたのは最後尾で、ちょうどバスが停車するその目の前だったのだ。  立ち眩み? 本当に?  少年は倒れ込む前、確実にこちらを見たのだ。目も合った。そして、俺が見ていると分かった上で、笑ったのだ。  からかわれただけなのかも知れない。よれよれのスーツを着て、目の下に隈を作って、それでも毎朝同じ時間に同じバス停で並び、そして唯一の慰めとしてラノベを読むこの俺を。 「……はっ」  思わず嗤いが込み上げた。  俺は踵を返す。怠い体を引き摺ってようやく辿り着いたこの場所だったが、そんなことはもうどうでも良い。両手を伸ばし、ぐんと伸びをする。  久しぶりに仰ぎ見た空は青く澄み渡り、まるで異世界のようだった。
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