0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
だが、期待に反して少年はむくりと起き上がった。周囲の騒めきの中、少年は肩を竦める。
「すみません、立ち眩みで……」
バスの停留所だ、当然、乗客を乗せるバスは減速していた。少年が立っていたのは最後尾で、ちょうどバスが停車するその目の前だったのだ。
立ち眩み? 本当に?
少年は倒れ込む前、確実にこちらを見たのだ。目も合った。そして、俺が見ていると分かった上で、笑ったのだ。
からかわれただけなのかも知れない。よれよれのスーツを着て、目の下に隈を作って、それでも毎朝同じ時間に同じバス停で並び、そして唯一の慰めとしてラノベを読むこの俺を。
「……はっ」
思わず嗤いが込み上げた。
俺は踵を返す。怠い体を引き摺ってようやく辿り着いたこの場所だったが、そんなことはもうどうでも良い。両手を伸ばし、ぐんと伸びをする。
久しぶりに仰ぎ見た空は青く澄み渡り、まるで異世界のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!