名ばかりの花嫁と、呪われた子爵令息

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 今、オズウェル家のお迎えの馬車に乗って、アレクサンダー様に会いに行く道中です。  馬車はオズウェル領の北端、木々が生い茂る深い森に入っていきます。  昼だというのに、太陽の光が遮られるくらいうっそうとしています。 「あの、御者さん。道を間違えていませんか」  馬車の手綱を握るおじいさんに声をかけるけれど、おじいさんは私を見ないで答えます。 「間違っておりませんよ。この先にオズウェル家の別邸があります」 「この先って、魔の森では」  正式な名前はノースフォレスト。  悪しき魔女が住み着いていると恐れられているので、通称魔の森です。  魔族と交流のある隣国、マールー王国ならまだしも、トナリは完全なる人間の国。  魔法を使える人間なんていません。  魔女とやらは、人をカエルにしてしまうとか雷を操るとか、とにかく恐ろしい逸話が後を絶たないんです。  たどり着いたのは、森の中にたたずむお屋敷でした。  外壁にツタがはびこっているし、庭に雑草が生い茂っているし、窓もほこりまみれ。……まるでお化け屋敷。  本当に間違えてませんよね。わざと廃墟に案内したんじゃないですよね。  鞄を抱えて馬車を降りると、御者のおじいさんが言います。 「あなたはこれからアレクサンダー様の妻となります。誠心誠意アレクサンダー様に尽くしてください。そして、この先何があろうと、ここで見聞きしたことを口外してはなりません」  見ちゃいけないものがこの先にあるみたいな言い方ですね。  新婚の奥様に言う台詞ではないように思います。    おじいさんは大きな木箱をいくつか荷台から降ろして、行ってしまいました。  私一人で屋敷の中まで運ぶのは大変そうですが、仕方ありません。箱を開けて小分けにすればなんとかなるでしょう。  荷物の片付けはあとまわしにして、苔むした門をくぐりました。  間違いなくアレクサンダー様がここにいるというのなら、お会いしないといけません。  屋敷の中も荒れ放題なら、なんとかして寝床だけでも整えたい。  玄関扉に手を伸ばすと、分厚い木の扉が大きな音を立てて開きました。 「遅い!!!!」  扉を開けるなり怒鳴ったのは、全長3メルテ(※日本で言うところのメートル)を超える獣でした。  オオカミ、でしょうか。ズボンをはいていて、二足歩行で、目が光っています。  でも私の知るオオカミってこんなに大きくないし、喋らないです。  目の前にいるこれは、何なのでしょうか。  モンスター?  アレクサンダー様はご無事でしょうか。  このオオカミに食べられてしまったのでは。  人間の言葉を話せるほどの知能を持ったモンスターがいるなんて、脅威です。  一度もお会いしたことがありませんが、私はアレクサンダー様の妻になるのです。  危険なものは排除しなければなりません!  背負っていた荷物を投げ、傘をつかみます。 「なに者か知りませんが、私は今日からアレクサンダー様の妻です。あなたに恨みはありませんが、敷地に侵入する不審者め。お覚悟を!!」 「は!? おい待て女。お前主人に向かって何を言ってやがる!!」 「主人? 何を訳の分からないことを! モンスターの手下になった覚えなどありません! てやあああ!」  傘を振り上げて突撃します。  これでも店のお隣に住んでいる元騎士のおじいちゃんから、護身術を習っていました。  モンスターを撃退する程度のことならできるはずです。 「待て! 俺だ! 俺がアレクサンダーだ! それを離せ、危ない!」  オオカミが大声でとんでもないことを叫びました。  …………これが、このモンスターが、アレクサンダー様ですか!?
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