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「そろそろ夏が終わるらしいよ」
僕は驚いて、彼女を振り向いた。
「まさか」
「どうしてマサカ?いつか終わるって判ってたはずでしょ」
彼女は涼しい顔をしてそう言った。
「だけど、そんな……」
彼女はクスリと笑って前を向いた。
僕たちは夕暮れのビルの屋上に来ていた。
目の前には海が広がる。
街は背後に広がっているが、僕たちは海を眺めに来ていた。
「閉じこもってばかりいるからよ。たまにはニュースを見なさいよ。どこを開いても、最近はその話ばかりなのに」
「ラジオでは言ってなかったよ」
「あんたなんか音楽聴いてばかりじゃない。夢を売る音楽番組で、夏が終わる話なんてしないわ」
仕方なく、僕はポケットから端末を取り出してニュースを探してみた。
地球の異常気象について、人々が騒ぎ始めて久しい。
平均気温は30℃を超えた。
氷河期に入る前の温暖化だと言われている。
いずれ夏は終わるだろう。
しかしそれは秋の訪れではなく、人類の終焉を意味していた。
ニュースは確かにそれらの事について囁いている。
虚虚実実の学説が入り混じり、議論され、今や通説となったその現象が目前に迫っているらしい。
「この暑さを人は乗り越えて生きてきたんだよ。きっと寒さだって、乗り越えられるよ」
「相変わらず能天気ね。嫌いじゃないけど」
彼女は皮肉に笑って、僕の前髪をかるく細い指先ではじいた。
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