ひらり、とびこえて

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初めての失恋に茫然自失の日が続いた。 そして気づいた。 失恋して死にたくなるほど悲しくても 何も変わらない「日常」が また次の日にもその次の日も 相変わらずやってくるということを。 朝が来て、大学行って、帰ってきて課題やって寝る、そしてまた朝が来る…。 その「相変わらずやって来る日常」を なんだかぶっち切りたくなっていた。 何気なく パソコンの画面をスクロールしていると イタリア・ヴェネツィアのカーニバルの写真が目に飛び込んだ。 色とりどりの衣装を身にまとい 仮面をかぶって素顔を隠す。 妖艶な出で立ちで街を練り歩く 仮装をした紳士淑女マダム達。 目の前に繰り広げられる非日常という現実。 この不思議な境界線…。 あ、これだ… これが見たい。 どーしても見たい! 夏のカーニバルまでまだある。 ツアーの予約も残り数席。 イタリア・ヴェネツィアに行こう! 「ちょっと隣街の本屋に行ってくる」 のノリで 「ちょっとイタリアに行って来る」 と両親に言った。 両親は、突然娘から 初海外旅行イタリア一人旅の話しを聞かされて 呆然として言葉をなくした。 だけど 「一人旅ツアー」に参加して行くことを条件に 母は旅行に行くことを止めなかった。 母には私の失恋のことをそれとなく話していて 女同士、気持ちは通じ合っていたからかな。 それに 私はもう20才を越えた大人だ。 旅行くらい1人で決めても何も問題ないはず。 父は、私が言ったことに 黙って聞いていて何も言わなかった。 イタリアに行くまで 旅行の話しはまるでなかったかのように 家族の日常は過ぎていった。
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