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「こんな風邪、寝てれば治る、熱、高くない、は、はつ、発情期の方が、ひとり、いやなのにっ……」
ぎゅう、とシーツを握り締めながらそう言うと、俯いて、今日は帰ってほしい、と続ける。
今はいらない、と。
がん、と頭を殴られたような気がして……それから直ぐにその言葉を本気で取る方が駄目だ、と思った。
本人がそう言ったって、病人を置いていくなんて、そっちの方が最低だ。
例え本当にもう大丈夫だとしても、それでも。
弱ってる彼に失望されたくなかった。
「……いるよ」
「へ」
「俺が和音をみてたいから、いる」
「……なんで」
「ごめんね、発情期、熱より辛いか。今度から、気をつける」
「え、え……?」
「ご飯、食べられるんだってね、夕飯作るよ、何がいい?」
え、え、と瞳をぱちぱちさせて、なんて?どういうこと?というように不思議そうなかおをする和音に笑うしかなかった。
自分がしてることはオメガの和音にとって最低なことだとわかってる。
でもそんな反応をされると、どれだけ酷いことをしていたのか思い知らされる。
ちょっとした風邪なんかより、発情期にひとりにされる方が辛い。
それを気をつけるねと言ったことを疑われるなんて、和音の中の俺は相当酷い男なんだろう。間違ってはいない。
でも本音じゃないんだ。
体調が悪い和音の傍にいて心配をしたいし、発情期の和音の面倒も見たい。
甘やかして、言うことを全部聞いて、優しくして、抱き締めて眠りにつきたい。
それは元気な時だって同じだ。
そっと髪を撫でると、まだ本調子じゃないのだろう、すぐにとろんと溶けた表情になる。
体調が悪い時は寝かせるのがいちばんだ。
横になるよう促すと、小さな唇を開いて、プリン食べたい、けど、と言い、視線を泳がせた。
「けど?」
「いるなら……ごはんより、ここにいて、ほしい……」
俺の手をぎゅうと握り、そんなことを言われたら……
今日は絶対に、ひとりで置いて帰るなんてこと、出来ない。
◆◆◆
暫く和音の手を握ったまま、深く眠るのを待った。
うとうとしてははっと瞳を開けて、俺の方を見る。
確認して、安心したのかな、またうとうとしてははっとして、を数回繰り返し、その行動が幼い時の妹を思い出して、その度に手を強く握り締めた。
ふうふうと息は荒いが、やっと少しの物音がしても起きないくらいには深く眠りについた和音の手を……勿体ないと思いながら剥がし、熱を吸い切った冷却シートも剥がし、新しいものを貼りつける。
冷たかったのだろう、う、と一瞬肩が揺れた。その肩まで毛布を掛け、ぽんぽんと胸を叩くと、ほんの少し、息が落ち着いた気がした、ような。
……願望かもしれないけれど。
少しの間、そのかわいらしい寝顔を堪能して、それからそっと動き出す。
さっきの青年……花音の番の千晶くん、だっけ。彼から幾つか引き継いだ。
洗濯機にシーツをかけてある、天気が良いので外に干して貰えたら、とのことで、洗濯機に入っていたシーツや枕カバーをベランダに干す。
掃除は千晶くんが終わらせていたようだ。
後は……
かずねくん、あまり料理しなくて。たまに僕、作りに来るんです。鍋料理とか、日持ちしそうなものとか。
今日も暫く食べられるようにスープとか作り置きしておこうと思ってて。
そう千晶くんが言っていたので、つい俺がやる、と言ってしまった。
彼はふふ、と笑って、じゃあお願いします、と頭を下げた。
くたくたに煮込んだ野菜たっぷりのスープと、幾つか副菜を作り、炊き込みご飯はおにぎりにして冷凍、それから……
プリンの作り方を検索。
買いに行けば早い。コンビニなら直ぐ近くにもある。
……けれど和音が、ここにいてほしいと言ったから。
あれだけ寝ていれば余裕で買いに行けると思う、でもそうしたくなかった。
プリン 簡単 作り方 検索。
生クリーム?ない、バニラエッセンス?そんなものは多分……うん、ない。
蒸し器?ない、漉し器?茶漉ならある。ココット皿?ない、耐熱容器……グラタン皿ならあるみたいだけどそれはでかいかな。
マグカップ?それなら幾つかある。
料理はするが、お菓子作りはしたことがなかった。
そういうのは妹がたまあに、バレンタインなんかに作るくらいで、後はやはり店で買った方が安全で美味い。
プリンなんて洋菓子店じゃなくても何処でも買える。作ろうと思ったことなんて一度だってない。
でも和音が食べたいって言ってたから。
初めてだし、材料も牛乳、卵、砂糖しかない、本格的なものとは程遠いド素人のプリンになることは火を見るより明らかだ。そういうレシピを探した訳だし。
……でも和音が食べたいって言ったから。
「……簡単っちゃ簡単だけど……多分本当はもっと色々あるんだよな?」
レンジやオーブン、蒸し器、鍋に水を張って……と色々ある作り方を見て、ううん、これはまた家ででも回数を重ねてみるか、と思う。
だって和音もプリンがすきだと、体調不良の今だってプリンが食べたいと言っている。すきな子のすきなものがわかっているなら上手くなりたいと思うのは自然なことだろう。
粗熱をとり、冷蔵庫で冷やしながら、和音が食べるところをつい想像してしまうのだ。
ちゃんと食べられるレベルに出来てたらいいけど。
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